窮地に追い詰められても、もう一歩だけ踏ん張れる人は何が違うのか? 本記事では、山口周氏に「決して寝る前に読み始めないこと。一度ページをめくってしまうと止めるのは不可能です。」と絶賛され、日経新聞、週刊現代などの書評で話題となっている『極限の漂流118日間』をもとに、「追い詰められても心が折れない人がやっていること」についてライター小川晶子氏が報告する。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

追い詰められても心が折れない人がやっていることPhoto: Adobe Stock

つらい状況でも、気持ちがゆるむ時間を持ちたい

 頑張っても報われないと感じる日々、忙しさ、貧しさ、病と戦っているときなど、つらい状況で耐え忍ばなければならないときというのはあるものだ。
 長期間ストレスを受け続けていると、人間は壊れてしまう。
 つらい日々の中でもふっと気持ちがゆるむような時間を見つけたいものだ。

極限の状況に割り込むコミカルなシーン

 話題のノンフィクション『極限の漂流118日間』(ソフィー・エルムハースト著/村井章子訳)で描かれているのは、イギリス人夫婦が極限の状況を生き延びるサバイバルだ。

 小さな救命ラフトとボートで太平洋を漂流する恐ろしさ……。嵐で簡単に転覆してしまうし、穴が開いたら終わりという不安定な状態なうえ、食料も飲み水もわずかしかない。
 ガリガリに痩せていくパートナーを見ることも、お互いにつらいだろう。
 夫のモーリスは、何度も自殺の方法を考えるくらい追い詰められていた。
 ただ、そんな過酷な状況でも、長い漂流の間には笑える出来事もある。
 ハラハラしながら読んでいる読者も、ふっと気持ちがゆるみ、クスっとしてしまうシーンがあるのだ。ここではそんなコミカルなシーンを2つだけ紹介したい。

【ハラハラ・クスッと①】ウミガメモーターボート

 夫婦はニュージーランドを目指していたが、船を失ったいまでは太平洋を漂うしかない。手漕ぎボートではどんなに頑張っても、島にたどり着く前にふたりの力が尽きることは明白だった。
 あるとき、妻のマラリンがボート近くを泳いでいたウミガメをつかまえ、いいことを思いつく。
 ウミガメの足にロープを縛り付けて泳がせ、ボートを引っ張ってもらおうというのである。
 一匹縛ると、カメはうまいことガラパゴス諸島方面に向かって泳ぎ出した。そこでもう一匹つかまえて、二頭立てにした。

「私たちの“チーム”が港まで連れて行ってくれると妄想した」とマラリンは書いている。(中略)
だがこの妄想はあっさり断ち切られた。あとからつかまえたカメが猛スピードで反対方向に泳ぎ始めたからである。生きているカメにはカメなりの考えがある。

――『極限の漂流118日間』より

 そんなにうまくいくわけはないが、見事に反対方向に行こうとするカメを想像して笑ってしまう。

【ハラハラ・クスッと②】鳥の食料を横取り

 食料がなくなり、餓死の恐怖におびえていた頃のこと。
 ボートのまわりをカツオドリが飛び回っていた。釣りをしようとしている夫婦を邪魔したり、ボートの中にフンをしたりする。

苛立ったモーリスは、追い払おうとオールで一撃を加えてやった。すると鳥はぎゃーっと叫んで海面に落ち、四匹のトビウオを吐き出したのである。すかさずそれを海面からすくい上げたモーリスは、こいつはごちそうだと喜んだ。
――『極限の漂流118日間』より

 最高にコミカルではないか。

 ふたりは何度も絶望しながらも、ボートのまわりを泳ぐ生き物たちに癒されたり、笑ったりしている。
 こうした時間が、気持ちを立て直すのに役立ったに違いない。
 本書は過酷な描写だけでなく、ユーモラスな描写にも注目してもらいたい。