たとえば、「前回のプロジェクトで○○の課題を最後までやり切ってくれたよね」「あの案件で生み出した成果や姿勢を評価している」といったように、本人の過去の行動や実績を根拠として示すのです。依頼の例としては、「難しい仕事だと思う。ただ、前回○○をやり切ったあなたなら挑戦できると思っている。この仕事が成功すれば、チームに△△というインパクトがある。ぜひ任せたい」といった感じです。
過去の実績を引き合いに出されると、部下は上司が自分の仕事を普段からしっかり見てくれており、そのうえで自分を選んでくれたのだと実感できます。部下は自分にはやり遂げる能力があるという感覚、すなわち「自己効力感」を高めることができます。アサインメントの極意とは、まさにこの自己効力感を育む点にあります。
上司の期待が成果を引き出すピグマリオン効果
人は、軽い仕事だと言われて頼まれるよりも、「自分だからこそ任されたのだ」と感じたときにその仕事に取り組む意義を見いだ出します。上司からの期待が部下の成果に影響を与える現象は、心理学で「ピグマリオン効果(教師期待効果)」として知られ、研究でも報告されています※2。人間には根底において、他者からの期待に応えたいという本能的な欲求があるのでしょう。
逆に、期待を感じられない環境に置かれた部下は、自分が軽くあしらわれているように感じ、自己効力感が低下します。その状態が続けば、「何をしても無駄だ」と諦めてしまう「学習性無力感」に陥り、成長の機会を自ら放棄してしまうことにもなりかねません。
ただし、面談の場だけで取り繕うように「期待しているよ」と口にしても効果はありません。上司が本当に期待しているかどうかは、日々の業務の割り振りや報告連絡のコミュニケーションなど、日頃の態度全般から自然とにじ滲み出るものだからです。口先だけの期待や演技は見透かされ、かえって人望を失います。
ローパフォーマーへの対応と人望の本質
なお、例外的に「簡単だからやってみて」という言葉が有効なケースもあります。それは、成果が出ずに自信をすっかり失っているメンバーや、自己効力感が著しく低下しているローパフォーマー層に対する場合です。
すでに自己効力感が低く、「自分には何もできない」と思い込んでいる人には、まず小さな成功体験を積ませることが大切です。「簡単な作業だから、まずはここからやってみよう」とハードルを下げることは、リハビリ的な効力を持ちます。一つ出来たら「しっかり出来たね」と認め、段階的に課題の難易度を上げていくのです。
結局は、すべての部下に同じ言葉を使うのではなく、相手の成長意欲、過去の実績、現在のメンタル状態を冷静に評価する眼力が必要なのです。ハラスメントを恐れるあまり、部下を腫れ物のように扱い、当たり障りのない仕事ばかりを与える必要はありません。人望の厚い上司とは、単に優しく接する人のことではなく、部下一人ひとりの実力と可能性を冷静に見極め、その根拠とともに信じて任せることができる人を指すのです。
※1 Grant, A. M., Campbell, E. M., Chen, G., Cottone, K., Lapedis, D., & Lee, K. (2007).
“Impact and the Art of Motivation Maintenance: The Effects of Contact with Beneficiaries on Persistence Behavior.” Organizational Behavior and Human Decision Processes, 103(1), 53–67. (自分の仕事の)影響とモチベーション維持に関する一連の研究。
※2 McNatt, D. B. (2000). “Ancient Pygmalion Joins Contemporary Management: A Meta-Analysis of the Result.”
Journal of Applied Psychology, 85(2), 314–322. 職場組織におけるピグマリオン効果の研究。








