物流品質の低下で
売上数量は約15%減った

 DIDによる分析の結果、物流品質の価値について3つの示唆が得られました。

 第1に、物流のサービス全体への影響の大きさです。最高品質の物流オプション(SF Express)が選べなくなったことで、トリートメント群全体での売上数量は約15%減少しました。また、別途行われた売上金額のデータを使った分析では、1時間あたり約178万元の売上金額を失ったことがわかりました。

 商品の価格や品揃えが変わったわけではありません。配送品質の違いだけで、顧客の購買行動がこれほど変わるという明確な証拠がわかったのです。

 第2に、商品の性質によって影響の大きさに違いがありました。商品の性質ごとにデータを分けてDIDを行ったところ、高価格帯の商品や、他店でも買える代替可能な人気商品ほど、売上の落ち込みが大きくなっていました。

 これは消費者の観点からすれば納得の傾向といえます。高価な商品であれば、確実に届く・傷がつかないといった配送の質がまさに求められます。また、人気商品ならば他店や別のプラットフォームでも販売されていることが多いので、顧客は別の場所から容易に購入することができます。

 これは、DIDによって、商品の性質ごとに異なる結果がわかったから得られた発見です。

 第3に、顧客は「待った」のではなく「逃げた」ことがわかりました。検索データを分析すると、トラブル期間中に競合であるJD.comの物流関連検索が約23%急増していました。

『原因と結果を武器にする思考』書影原因と結果を武器にする思考』(安井翔太、伊藤寛武、金子雄祐、日経BP 日本経済新聞出版)

 JD.comはこのようなトラブルが起きていなかったため、顧客はSF Expressと同水準の配送品質を求めて、競合プラットフォームに流出していたことを示唆しています。

 これらの結果が突きつけるメッセージは明快です。経営上の示唆として、物流品質への投資は単なるコスト削減の対象ではなく、売上を支え、顧客流出を防ぐ競争優位の源泉であるという強力なエビデンスが示されました。

 そしてもう1つ、この事例が教えてくれることがあります。世の中で偶発的に起きたショックを捉え、丁寧に読み解くことで、経営の意思決定を動かすエビデンスを引き出せるということです。

 それは、実験なんて怖くてできないようなテーマであっても変わりません。DIDという道具を手にしていれば、起きてしまった出来事すら、分析の力で学びに変えることができるのです。