2025年6月、日本製鉄は約2兆円を投じてUSスチールを買収しました。では、この大型M&Aによって日本製鉄の財務状況はどのように変化したのでしょうか? 書籍『サンキー図で「お金の流れ」が1秒でわかる 見るだけ決算書』に登場するBSサンキー図で、決算書を読み解いてみましょう。

総資産は3.7兆円増、有形固定資産は2.3兆円増

まず、買収前の2025年3月末と買収後の2026年3月末のBSサンキー図を比較します。その後にCFサンキー図を見渡しながら、約2兆円の買収資金を日本製鉄がどのように用意したのかを見ていきましょう。

企業を買収すると、買収先が持つ資産と負債を自社の連結BSに取り込むことになります。では、USスチールの買収によって、日本製鉄のBSはどれほど変わったのでしょうか?

日本製鉄のBSサンキー図|上:2025年3月期、下:2026年3月期日本製鉄のBSサンキー図|上:2025年3月期、下:2026年3月期

BSの規模を示す総資産は2025年3月末の10.9兆円から、2026年3月末には14.7兆円へ増加しました。1年間で3.7兆円の増加です。

BS左側の内訳を見ると、特に増えているのが有形固定資産です。3.6兆円から5.9兆円へ、2.3兆円増えました。わずか1年で、それまで保有していた有形固定資産の6割に相当する規模の資産が加わったことになります。

決算書でさらに確認したところ、このうちM&Aによる有形固定資産の取得が約1.7兆円でした。「M&Aは時間を買う」とも言われるように、自前で同規模の設備や事業基盤を一から築くのではなく、すでに存在する事業基盤を短期間で取り込めるのがM&Aの特徴です。

もっとも、資産が増えたこと自体は成果ではありません。今後は、この大きくなった事業基盤をどれだけ利益やキャッシュフローにつなげられるかが問われます。

負債は3.6兆円増、長期借入金は約2.7兆円増

一方で、BSの右側にはどのような変化があったのでしょうか?

(再掲)(再掲)

次にBSの右側に注目してみましょう。負債合計は5.0兆円から8.6兆円へ、3.6兆円増加しました。中でも目立つのが長期借入金で、2.0兆円から約4.7兆円へ、約2.7兆円ほど増加しています。

一方、純資産は5.9兆円から6.0兆円と、ほとんど変わっていません。つまり、買収後に増えた総資産3.7兆円のほとんどは、純資産ではなく負債の増加によるものだとわかります。

ただし、この負債の増加が「USスチールから引き継いだ分」なのか「買収資金として日本製鉄が新たに借りた分」なのかは、BSサンキー図だけでは区別がつきません。BSに映るのは、増えたあとの姿だけだからです。

そこで次にCFを見て、日本製鉄が買収資金をどのように調達したのかを確認します。これを合わせて見ることで、負債が3.6兆円増えた背景をより具体的に捉えることができます。

M&A支出2.0兆円に対し、財務CFは+1.9兆円

日本製鉄のCFサンキー図|2026年3月期日本製鉄のCFサンキー図|2026年3月期

CFを見ると、大型M&Aの裏側では、投資CFと財務CFの両方が大きく動いていることがわかります。

2026年3月期の投資CFは▲2.8兆円。その中でも特に大きいのが、M&Aによる支出2.0兆円です。一方、営業CFは+0.7兆円でした。M&Aによる支出はその約2.8倍にあたり、本業で生み出したキャッシュだけではカバーできない規模であることがわかります。

そこで大きく動いているのが財務CFです。財務CFは+1.9兆円で、そのうち借入金による資金流入が+1.5兆円を占めています。

つまりこの1年間は、M&Aで約2兆円のキャッシュが流出する一方、それに近い規模の資金を財務活動で調達していたことになります。

ただ、借入が増えれば金利負担も増えます。実際に決算書で確認すると、支払利息は前期の382億円から896億円へ大幅に増加しています。

M&Aで事業規模を拡大しても、増えた資産から十分な利益を生み出せなければ、支払利息の増加によって減益につながる可能性があります。今後は、買収によって増えた事業が、金利負担を上回るだけの利益を生み出せるかにも注目です。

まとめ:「サンキー図による見える化」で伝わりやすくなる

M&Aに関する話題では「いくらで買ったか」に目が行きがちです。一方、BS・CFサンキー図を並べると、「買収によって会社の中身がどう変わり、その裏側でどれほどの資金が動いたのか」まで見えてきます。

今回の日本製鉄の大型M&Aについて簡単にまとめてみましょう。

・BS左側:総資産が3.7兆円増
・BS右側:負債が3.6兆円増
・CF:M&Aによる支出2.0兆円に対し、財務CFは+1.9兆円

サンキー図のメリットは、ただ「わかりやすくなる」点だけではありません。会計に詳しい人が、初心者に伝えやすくなる点も挙げられます。専門知識がなくても、視覚的ツールを用いて感覚的に伝えることができる。それが、この「サンキー図」のメリットなのです。