ADHD(注意欠如多動症)の当事者で、ASD(自閉スペクトラム症)とADHDの2人の娘さんをもつなちゅ。さん。新刊『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』では、子どもから大人まで一生使える具体的な対応策を伝えている。今回のテーマは、友人との距離。しんどくなった関係を、どう扱えばいいのか。著者に話を聞いた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局、イラスト/武者小路晶子)

友達

「切る」か「我慢する」になっていないか

――友達関係がしんどくなったとき、どこでつまずく人が多いのでしょう。

なちゅ。:しんどくなるのは、選択肢を2つしか持っていないからだと思います。

友達関係がしんどくなったとき、頭に浮かぶのは「切る」か「我慢する」の二択だったりしますよね。でも、この二択しか持っていないことこそが、しんどさの正体なんです。

切るのは重い。相手を「切るべき人間」と確定させる判決だからです。だから踏み切れずに我慢する。そして我慢は、すがり(依存)に変わることもある。どちらを選んでもしんどいんですね。

――別の選択肢はあるんでしょうか?

なちゅ。:はい。実際の距離は、スイッチではなくツマミなんです。ゼロか100かではなく、無段階に調整できる。

合わなくなった友達は、切らなくていい。しんどくないところまで、距離を空ければいいだけです。「この人が悪いから距離を置く」という裁判もジャッジも、しなくていいんです。

「また落ち着いたら~」と返しておく

――具体的には、どうやって距離を空けるのでしょう。

なちゅ。:自分から誘わない。誘われたら、ふんわり断る。この2つですね。

「その日あかんわ~」「また落ち着いたら~」くらいでいいんです。距離を空けたい相手には、断るときに理由の説明はしません。「本当は一緒に行きたいの!」など、余計な一言をつける必要もない。嘘はつかなくていいんです。

――関係が終わってしまわないでしょうか?

なちゅ。:もしも後日余裕ができて、もう少し付き合いたくなったら、自分から誘えばいいだけです。関係を切っていないので、手続きも様子見も不要なんですね。

――距離をあけるのは、相手を見限ることになりませんか。

なちゅ。:むしろ逆です。

近い距離では約束を守れない人が、近況を交換するくらいの距離なら、ずっと誠実な友達でいられる。深い相談には向かない人が、遊びの相手としては最高だったりする。

不誠実に見えたものの正体が、その人の人格ではなく、「今の距離に対して、相手が誠実でいられる範囲が追いついていない」だけ。そういうことは、よくあるんです。

切ってしまえば、その距離ごと失います。あけるだけなら、付き合える範囲で友達が続く。

友達に、一軍も二軍もない

――距離を変えるのは、相手にランクをつけることのようにも思えます。

なちゅ。:それは違うと思っています。みんなフラットに友達です。

変わるのは、相手ごとの運用ルールの量と中身だけ。相手の事情や特性に合わせて、ここまで付き合う、これは預けない、と決める。理解しきれない部分があるなら、その手前までで付き合う。

それは相手を下に置くことではなく、お互いにストレスのない距離を作る作業なんですね。

――付き合い方そのものを変えるということですか。

なちゅ。:たとえば、ランニングをするならAさんと、アートを見に行くならBさんと、というふうに「座組み」を変えて付き合います。

自分は、どの距離の友達にも誠実に。そして相手が誠実でなくなったら、それは距離をあけるサインです。ただし、不誠実の中身もいろいろで、距離が空けば誠実に収まることもある。

「切る/我慢する」の2項から、自由になってほしいと思います。

[著者]
なちゅ。
1980年生まれのワーキングマザー。発達障害(ADHD:注意欠如多動症)当事者。中学生と高校生の娘、そして夫も発達障害の特性を強く持つ。長女の発達障害診断をきっかけに、発達障害やそれに関連する分野の独学を開始。以来15年以上、自らの発達障害や子育てについてXを中心に情報発信を行う。仕事でも、障害福祉分野でマネジメント担当をしながら、個人事業主として講師業やスタートアップのサポートに従事。なかでも、自身の経験を活かした発達障害の親子のケアに力を入れている。

[医療監修]
本田秀夫(ほんだ・ひでお)
医師・信州大学医学部教授
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授。信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。