たとえ「右腕」になれても
仕事のやりがいを失うリスクがある

 この場合、まず「Aさんの右腕としてキャリアを重ねていく」選択のベネフィット(益)とリスクを整理し、比較します(注4)。

 すでに出世の噂もあり、実力も野心もあるAさんは、今後、さらに出世していく可能性が高いと考えられます。もしAさんが相談者のことを、「自分の苦手な実務や面倒な雑用を代行してくれ、クセの強い性格や自分の求めるものも理解してくれる役立つ存在であり、さらには常に賞賛をくれる一番の味方だ」と思うようになれば、Aさんは相談者を手放したくなくなるでしょう。そうなれば、「右腕」として相談者も、Aさんと一緒に出世街道を歩むことになるかもしれません。

 相談者1人で地道に1つずつ結果を出し社内で認められるよりも、確実に速く「効率的に出世する道」ともいえ、人によっては、あながち悪い選択ではないでしょう(注3)。

『病まないための職場サバイバル戦略』書影病まないための職場サバイバル戦略』(蝦名玲子、集英社)

 ただしこの選択には、当然ながらリスクもあります。たとえAさんの中で相談者の立場が「右腕」に昇格したとしても、この関係性において、相談者が「便利な人」として扱われ続けることに変わりはありません。

 短期的にはよくても、長期にわたると、「何のために、こんなしんどい思いをしてまでAさんのために働いているのだろう。もうどうでもいい……」と仕事への意味を感じられなくなる可能性もあります。

 加えてAさんが本当に出世するかどうかはわからず、不確実性を伴います。そうしたなかで、リスクを負ってまでこの道を選択することが本当に適切かどうかも考えなければなりません。

 こうしてベネフィットとリスクを整理し、比較するのです。

自分が出世を望まないなら
距離を置いたほうがいい

 次に、自分の価値観や希望とも照らし合わせてみます(注4)(注5)。

 たとえば、自分がどんなキャリアを歩んでいきたいか、考えてみましょう。「華々しい出世街道を最速・最短で歩み、社会経済的地位がほしいのか。あるいは、重い責任を伴い残業もある管理職は、できるだけ避けたいのか」。自分の価値観や希望を振り返り、考えてみるのです。

 ここで、そもそも相談者が「出世したい」と望んでいない場合には、Aさんの右腕としてキャリアを重ねていく選択は、リスクしかないものです。そうした場合には、迷わずAさんとは一定の距離を置く道を歩まれると良いでしょう。

(注4)蝦名玲子『公衆衛生の緊急事態にまちの医療者が知っておきたいリスクコミュニケーション』医学書院、2022年。

(注5)中山和弘「健康の社会的決定要因としてのヘルスリテラシー」『日本健康教育学会誌』30(2)、2022年、172-180頁。