「鉄不足」と聞くと、貧血や立ちくらみを思い浮かべる人は多いのではないだろうか。しかし、成長期の子どもにとって、鉄はそれだけではない重要な役割を担っている。とくに脳が大きく発達する時期に鉄が不足すると、その影響が長期にわたって残る可能性も指摘されている。しかも、日本では乳幼児と10代女子のおよそ5人に1人が「鉄欠乏」だという報告もある。では、子どもの鉄不足を放っておくと、どのような影響が表れるのだろうか。『医師が教える 子どもの習慣50の基本』から一部抜粋してお届けする。(ダイヤモンド社書籍編集局)
Photo: Adobe Stock
どうして鉄が大切なの?
子どもにおける鉄のおもな役割は、赤血球の生成、脳の発達、成長や免疫機能の維持です。鉄は生命維持に不可欠な栄養素であり、とくに生後1,000日間(妊娠から2歳まで)の発達期においてとても重要です。
私たちの神経は大人の場合、1日に1.5~2mm伸びることがわかっています。これはケガをした手の神経の再生速度の研究によって示されています(15)。
大人よりも子どもは再生が速い傾向にあり、10~12歳の症例では成人の約3倍に達することが報告されています(15)。そして、この神経の発達に欠かせないのが鉄なのです。
神経発達はもちろん、全身すべての細胞に鉄は必要です。しかし、日本の乳幼児、10代女子の鉄欠乏は約5人に1人という報告があります(16)。妊娠期から乳幼児期にかけての鉄欠乏は、脳機能や運動機能、行動発達(勉強やコミュニケーションとは違い、ものを投げるなど行動面での発達)に、長期にわたって影響をもたらすことが報告されています(17~21)。
鉄欠乏は、言語や運動発達の遅れ、脳機能の低下、ADHDやASDなどの神経発達障害のリスクと関連しています。
また、母体の鉄欠乏が新生児の鉄状態や2歳時点の神経発達に悪影響を及ぼすことも、最近の「前向きコホート研究(ある集団を、ある時点から未来に向かって経過を追って解析する研究)」で示されています(19, 22~25)。
米国小児科学会は、神経発達障害の予防を目的に、母乳栄養児に生後4か月ごろから鉄を補充(1mg/kg/日)することを推奨しています(26)。
なお、WHO、ユニセフはどちらも、母乳育児は生後6か月ごろまでを推奨していて、生後6か月ごろから離乳食を開始し、母乳は母子双方が望むなら2歳ごろまでがよいとしています(27)。
もちろん、この時期を過ぎても鉄は必要な栄養素です。食事に取り入れ、心配なことがあれば信頼できる医師に相談しましょう。
鉄は睡眠、情緒の安定、記憶力などに必須です。1つずつ見ていきましょう。
鉄は睡眠に必須
意外に思われるかもしれませんが、鉄は睡眠と大きく関係しています。睡眠の質の調整に欠かせないドパミンを合成するために、鉄が使われるからです。鉄が不足・欠乏していると、十分なドパミンが作られなくなり睡眠の質が下がります。
また、鉄は日内変動(1日のリズム)を作る遺伝子群に作用します。そのため、不足すると睡眠と覚醒のリズムが乱れ、日中にやたら眠くなったり、夜に眠れなかったりします。
生理のときに眠くなる現象は多くの女性が体験していると思いますが、これは出血により鉄が不足するからです(28)。
鉄は情緒の安定に必須
鉄は、とくにセロトニン、ドパミンなどの神経伝達物質の合成に欠かせません。セロトニン、ドパミンなどは気分、情緒を調整する脳内ホルモンです。十分に作られないと気分や情緒が不安定になり、うつや不安症状のリスクが上がります。
大脳の深いところには基底核(きていかく)(神経核の集まり)という部分があり、鉄が不足しているとその容量と機能が落ちてしまいます。思春期の子どもによく見られる不機嫌、うつ、不安、自己否定は、鉄の不足・欠乏と深く関わっているのです(29,30)。
鉄は記憶力にも必須
鉄は海馬の機能にも重要な役割があります。海馬は記憶力、判断力をつかさどる場所なので、鉄が不足・欠乏していると、記憶力が落ちて思考も遅くなります(31)。
鉄は何から摂ればいい?
鉄が多く含まれる食材はレバー、魚、小松菜、大豆、ピュアココアなどです。しかし鉄が本当に不足・欠乏している場合は、残念ながら食事だけでは補いきれません。
栄養に詳しい医師に相談して、鉄剤の処方を受けるか、手頃な値段の良質なサプリメントを教えてもらいましょう。高額なサプリメントは家計に負担がかかり、「サプリ貧乏」になってしまいます。逆に、効果の見込めない詐欺まがいのサプリメントもあります。
当クリニックで推奨しているネット購入可のサプリメントは、太陽化学が販売する「クッキンサプリFe」です。これは粉末で、鉄の摂取による副作用(便秘や吐き気など)が起こりにくい設計になっているので安心です。ちなみに私はこの商品との利害関係はありません。ただ、本当に鉄が欠乏している場合には、残念ながらこの粉末では充足しないので、鉄剤処方を医師に検討してもらいましょう。
私の患者さんのなかには、鉄剤を飲み始めてから3か月ほど経って「テストの点数が上がった!」と報告してくれる小学生が何人もいます。ぜひ、鉄の摂取を心がけてみてくださいね。
16 ファンケル. 中学生の鉄欠乏状態を尿検査で発見できる可能性を確認 [cited 2026 Jul 31]. Available from: https://www.fancl.jp/news/20230053/pdf/20230525_chugakuseinoketuboujyoutaitonyoukennsadehakkenndekirukanouseiwokakuninn.pdf
17 McCarthy EK, Murray DM, Kiely ME. Iron deficiency during the first 1000 days of life: Are we doing enough to protect the developing brain? Proc Nutr Soc. 2022;81(1):108-118. doi: 10.1017/S0029665121002858.
18 Georgieff MK. Iron assessment to protect the developing brain. Am J Clin Nutr. 2017;106(Suppl 6):1588S-1593S. doi: 10.3945/ajcn.117.155846.
19 Pivina L, Semenova Y, Doşa MD, Dauletyarova M, Bjørklund G. Iron deficiency, cognitive functions, and neurobehavioral disorders in children. J Mol Neurosci. 2019;68(1):1-10. doi: 10.1007/s12031-019-01276-1.
20 Markova V, Holm C, Pinborg AB, Thomsen LL, Moos T. Impairment of the developing human brain in iron deficiency: Correlations to findings in experimental animals and prospects for early intervention therapy. Pharmaceuticals (Basel). 2019;12(3):120. doi: 10.3390/ph12030120.
21 Georgieff MK. The importance of iron deficiency in pregnancy on fetal, neonatal, and infant neurodevelopmental outcomes. Int J Gynaecol Obstet. 2023;162 (Suppl 2):83-88. doi: 10.1002/ijgo.14951.
22 McWilliams S, Singh I, Leung W, Stockler S, Ipsiroglu OS. Iron deficiency and common neurodevelopmental disorders―A scoping review. PLoS One. 2022;17(9):e0273819. doi: 10.1371/journal.pone.0273819.
23 Gingoyon A, Borkhoff CM, Koroshegyi C, et al. Chronic iron deficiency and cognitive function in early childhood. Pediatrics. 2022;150(6):e2021055926. doi: 10.1542/peds.2021-055926.
24 McCarthy EK, Schneck D, Basu S, et al. Impact of maternal iron deficiency in early pregnancy on neonatal iron status and neurodevelopment at two years of age: A prospective, maternal-infant cohort study. J Nutr. 2026;156(1):101240. doi: 10.1016/j.tjnut.2025.11.009.
25 Larsen B, Baller EB, Boucher AA, et al. Development of iron status measures during youth: Associations with sex, neighborhood socioeconomic status, cognitive performance, and brain structure. Am J Clin Nutr. 2023;118(1):121-131. doi: 10.1016/j.ajcnut.2023.05.005.
26 Iron Deficiency and Iron Deficiency Anemia. [cited 2026 Jul 31]. Available from: https://publications.aap.org/first1000days/module/28151/section/36e6393f-a7c2-4dab-a20e-c871593d5936?target=module-content?autologincheck=redirected
27 North K, Gao M, Allen G, Lee AC. Breastfeeding in a global context: Epidemiology, impact, and future directions. Clin Ther. 2022;44(2):228-244. doi: 10.1016/j.clinthera.2021.11.017.
28 Al-Hinai M, Baylin A, Peterson KE, et al. Sex-specific associations between serum ferritin, sleep, and blood leukocyte DNA methylation of circadian genes during adolescence. Sleep. 2025;48(8):zsaf116. doi: 10.1093/sleep/zsaf116.
29 Abbas M, Gandy K, Salas R, Devaraj S, Calarge CA. Iron deficiency and internalizing symptom severity in unmedicated adolescents: A pilot study. Psychol Med. 2023;53(6):2274-2284. doi: 10.1017/S0033291721004098.
30 Fiani D, Kim JW, Hu M, et al. Iron deficiency without anemia and reduced basal ganglia iron content in youths. JAMA Netw Open. 2025;8(6):e2516687. doi: 10.100/jamanetworkopen.2025.16687.
31 Fiani D, Chahine S, Zaboube M, et al. Psychiatric and cognitive outcomes of iron supplementation in non-anemic children, adolescents, and menstruating adults: A meta-analysis and systematic review. Neurosci Biobehav Rev. 2025;178:106372. doi: 10.1016/j.neubiorev.2025.106372.
赤坂ファミリークリニック院長/小児科医/MD, MPH/BCIA認定ニューロフィードバック認定医
NPO法人Healthy Children, Healthy Lives代表理事。
東京外国語大学卒、帝京大学医学部卒、東京大学大学院医学系研究科修了。
医師になる前から同時通訳者として天皇陛下や歴代首相、米国大統領の通訳を務め、現在も医学系会議を中心に活動している。通訳の仕事をしながら2児をもうけたあと、40歳で医学部を受験し、医師に。卓越した英語力を武器に、海外の学術論文から日々最新の情報をアップデートしている。メディア出演も多く、わかりやすい説明と親しみやすい人柄で子どもはもちろん、その親からの信頼も厚い。著書に『医師が教える 子どもの食事 50の基本』(ダイヤモンド社)などがある。






