ADHDの当事者であるなちゅ。さんが、40年にわたって自分の失敗を観察・分析し続けてまとめた『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』(ダイヤモンド社)。世のいたるところに潜む「こうすべき」という呪いを解き、「こんなふうに生きてもいい」という新鮮な発見をもたらしてくれる一冊だ。同書の医療監修を担当した児童精神科医の本田秀夫氏となちゅ。さんが対談。発達障害の当事者が、もっと自由に、いきいきと生きる方法について語り合った。(構成/藤田美菜子、ダイヤモンド社書籍編集局)

対談

「この人は、僕なんじゃないか」

――まず、お二人の自己紹介をお願いします。

本田秀夫(以下、本田)信州大学の本田と申します。児童精神科医で、発達障害の臨床と研究を専門にしています。今回、なちゅ。さんのご本の医療監修を担当させていただきました。

――実際に原稿を読まれていかがでしたか。

本田 本当に面白かったです。読んでいるうちに「この人、僕なんじゃないか」という錯覚に陥ったほど。僕もなちゅ。さんと同じ、不注意タイプ(のADHD)なので、「この通りだ」と思いましたね。書籍の監修を頼まれることは結構あるのですが、著者に会ってみたいと思ったのは初めてです。僕自身、ここに書かれているようなことを日頃から自分でも実践しているので、とても共感しました。

なちゅ。 改めまして、なちゅ。といいます。子どもが2人いて、上の子が3歳になるときに自閉症の診断が出ました。言葉がなかったので、それでつながった形ですね。そこから「発達障害とは何か」を勉強しはじめたのですが、その時点では、私自身は全然違うと思っていました。でも、最初に自閉症を知り、次にADHDを知り、「いや、私やん。私の親やん」ということになって。そこから「一族郎党そうやん」というところまで来ました。

そのころには子どもが2人になっていて、それぞれ特性が全然違う。私と夫も全然違う。でも明らかに、全員に発達障害の特性がある。それで夫と2人で話し合って、まず自分たちのことを徹底的に理解しようと決めました。とにかく本屋に行って、買って、ひたすら読む。その中に、本田先生のご著書もあったんです。『自閉症スペクトラムの子のソーシャルスキルを育てる本』シリーズ(講談社)は、子育ての見通しを持つベースになりましたし、『最新図解 女性の発達障害サポートブック』(ナツメ社)も、ツイートでめちゃくちゃ推すほど気に入ってしました。

本田 ありがとうございます。

なちゅ。 先生の本からは「発達障害は、障害ではなく“少数派”なんだ」ということを学ばせてもらったのが一番大きかったです。当時配信されていた講演も聞いていましたが、発達障害の子をどう育てていくかという話を聞けば聞くほど、「私自身が育ちの中でそこを通っていない」と感じました。そこで、子どものためにやってあげられることを、今から自分のためにもやろうと。すると、先生がご本の中で言われていたのと同じところに自然と行き着いた。さらに、それをどんどん自分に合わせていったのが、今回自分で書いた本のベースになっています。

本田 先ほど名前を出してくださった『女性の発達障害サポートブック』は、女性に特化した本がまだそんなになかった時期に「作りましょう」と誘われて書いたものですが、今から思えばちょっと遠慮がちなんですよね。

僕自身が男性で、男性だけで書くのは嫌だったので、女性の共著者にも入ってもらってはいるのですが、女性特有の体の問題などについてはあまり踏み込めていない。だから、女性の当事者が自分で開き直って書いたこの本のパワーはすごいと思いました。

同じ服を3色、2つの家に置いている

――先ほど「同じタイプ」という話がありましたが、お二人は生活スタイルもかなり近いそうですね。

本田 具体的にどこが、と聞かれると困るくらい、全部似ているんです。例えば、「毎日違う服を着なくていい」というのがありますよね。思考と決断の回数を減らすために「365日、まったく同じ服を着る」と。

僕の場合、東京と松本に家があるんですが、両方に同じ形のコーディネートを3色ずつ揃えて置いてあります。シャツも下着も靴下も全部同じもの。だからどっちの家にいても、何も考えずに済む。

なちゅ。 わかります。

本田 あと、僕も(あまり大きな声では言えないですが)「風呂キャンセル界隈」なので、風呂はだいたい2、3日に1回です。ヒゲを剃るのも3日に1回くらい。別に誰も気づかないからいいや、と本当に開き直れています。

料理も、松本の家は一人暮らしなので「自炊している」ことにしていますが、僕の場合はペットボトルのふたを開けて水を飲むことからもう「自炊」と称している。とにかく家で食べていれば自炊だろう、くらいの感覚ですね。

なちゅ。さんの本にも書かれていましたが、僕たちは、一般の人が「ちょっと一手間、二手間かければいいだけ」と思うようなことに、ものすごくエネルギーを使うんです。「今日も風呂に入って、あれをやって、これもやらなきゃ」と考えるだけでも気が重いし、やったらもうどっと疲れて、何もやる気がしなくなる。

僕の場合、仕事を優先したいので、そのためには他のことには一切エネルギーを使わずに済むような生活になるんですね。そうした「割り切り方」がちゃんと書いてあるところにも共感しました。

[著者]
なちゅ。
1980年生まれのワーキングマザー。発達障害(ADHD:注意欠如多動症)当事者。中学生と高校生の娘、そして夫も発達障害の特性を強く持つ。長女の発達障害診断をきっかけに、発達障害やそれに関連する分野の独学を開始。以来15年以上、自らの発達障害や子育てについてXを中心に情報発信を行う。仕事でも、障害福祉分野でマネジメント担当をしながら、個人事業主として講師業やスタートアップのサポートに従事。なかでも、自身の経験を活かした発達障害の親子のケアに力を入れている。

[医療監修]
本田秀夫(ほんだ・ひでお)
医師・信州大学医学部教授
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授。信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。