ここ数年で、児童発達支援の事業所が急増している。厚労省の資料によると、2021年度末からの3年間で、事業所の数は約1万ヵ所から1万4000カ所へと4割以上増えた。一方で、この「療育ブーム」が、発達障害を持つ子と親の両方にとってプレッシャーになっている現実がある。『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』(なちゅ。著/ダイヤモンド社)の医療監修を務める本田秀夫氏に、発達障害の「本当のところ」を聞くインタビュー。長年、発達障害の臨床に携わってきた本田氏は、いま広がりつつある熱心さの向かう先に、はっきりと疑問を投げかける。(構成/藤田美菜子、ダイヤモンド社書籍編集局)

本田秀夫先生

過熱する「療育ブーム」

――最近、早期療育への関心が急速に高まっています。この流れを本田先生はどうご覧になっていますか?

本田秀夫(以下、本田) いささか過熱気味だと感じています。

ネットを見ていても「早く療育につなげないと手遅れになる」というような言説が目立ちますよね。あれは本当によくない。こうした言説を真に受けた親が「この子が嫌がっても、行かせるのが子どものためだ」と頑なになってしまっている。

療育の事業所が「ここに通えばお子さんが伸びますよ」と謳うこと自体は、ある程度しかたがないと思うんです。そう言わなければ、選んでもらえませんから。

ただ、僕がずっと言い続けてきたのは、療育とは子どもをサポートするように見せかけつつ、実は親のほうを変えるためのものだ、ということです。

上手にやっている事業所を見ると、入り口では他と同じように「こんなに子どもが伸びますよ」と言っているのですが、実際には子どもたちがすごく楽しそうに通っている。伸びるかどうかよりも、子どもにとって楽しく通えるかのほうが大事なんです。そして、子どもが喜んで通っている様子を見ているうちに、親の気持ちが変わっていくのです。

「子どもの発達障害が治る」は誇大広告

――親の気持ちが、どう変わるのでしょうか?

本田 「子どもの発達障害が治るかもしれない」という夢物語から覚めるんです。

要するに、自分が育てているのは別人種や異星人みたいな存在であることに気づくんですね。相手が異星人なら、異星人の育て方に切り替えたほうがいい。

子どもは変わらないので、親が変わるしかない――それに早く気づくほど、子どもも親もラクになれます。

なちゅ。さんも指摘されていましたが、いまの療育は「擬態」の仕方をひたすら教える場になっている側面があります。つまり、発達障害の特性を隠し「普通の人」のふりをして周囲に合わせようとする。

しかし、擬態を重ね続けるといつか限界がきて、うつや不安症を招くことになりかねません。

ですから大事なことは、いかに早い段階で、親のほうが子の発達障害に対して「開き直った」スタンスになれるか。そのサポートをすることが、療育の本来の役目ではないでしょうか。

――療育に通えば、「子どもの発達障害が治る」というのは幻想なのでしょうか?

本田 その通りです。子どもにはそれぞれ生まれ持った力がある。子どもの成長とは、もともと持っている力を発揮できるか、発揮できずに悪いほうへ向かうか、そのどちらかしかない。いい環境で育てば、もともと持っている可能性は開き、環境が悪いと可能性が閉ざされてしまう。だから、確かにいい環境と教育は重要です。でも、いくら環境や教育を頑張って調整しても、子どもがもともと持っている力以上のことをできるようにするのは難しい。

だから、いい教育というのは、もともとその子が持っている力が育つことを邪魔しない教育のことなんです。伸ばすのではなく、邪魔しない。

そこが逆になってしまうと、一生懸命やればやるほど子どもが苦しくなる。実際、親御さんが療育に熱心になりすぎた結果、お子さんのほうが参ってしまったというケースもよく経験します。

――療育に行くと早くから医療につながれるからいい、という意見もあります。

本田 早くから医療につながることの意味は、心ある医者から「早く来たからといって、別に発達障害の特性がなくなるわけではありませんよ」ときちんと言ってもらえることにあります。

別に、早く医療につながったからといって「良くなる」わけではないのです。繰り返しになりますが、こうした親の夢物語を、できるだけ早い時期に打ち砕くことこそが大事だと思います。

親のほうこそ「開き直り」が必要だ

――親が変わるためには、他にどのようなきっかけがあるでしょうか?

本田 親も必死ですから、そう簡単には変われません。なかなか変われない人もたくさんいます。ただ、他のいろいろな立場の親の話を聞くことで、自分の考えが柔軟になっていくことはあるのではないでしょうか。

なちゅ。さんは障害をもった人の「ピアコミュニティ」にかかわっていらっしゃるそうですね。

こうしたコミュニティに参加してみるのは意味のあることだと思います。場によっては、発達障害に限らず、さまざまな障害のある子の親御さんが集まってくる。

ずっと同じところで足踏みしている人もいれば、柔軟に変わっていく人も、苦しみながら少しずつ変わっていく人もいる。そういう人たちと話をしていくうちに、「そういう道もあるのか」と気づくこともあるでしょう。

その意味で、なちゅ。さんが書かれた『生きづらい女の子が覚えておきたいこと』もまた、発達障害の子を持つ親に「そういう道もあるのか」という発見をくれる本だと思います。

当事者はもちろん、親御さんこそ、なちゅ。さんのように「開き直って」ほしいですね。

[医療監修]
本田秀夫(ほんだ・ひでお)
医師・信州大学医学部教授
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授。信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。