「寝ても休んでも疲れが取れない」「なんだかしんどい」「なかなか寝つけない」……。最近、メンタルの不調を訴える人が増えています。ADHD(注意欠如・多動症)で、うつサバイバーのバク@精神科医さんの最新刊『その考え、捨てちゃえば あなたの「思考のくせ」を変える40のヒント』(ダイヤモンド社)は、そうしたメンタル不調から抜け出すための「苦手な人との距離の取り方」や「気持ちをリセットするための方法」などを紹介する一冊。本連載では同書から抜粋・編集して、もっと楽に生きられるようになるためのヒント&解決策をお届けします。
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正直は、美徳か?
「正直であることは、美徳である」
子供の頃、誰しも一度はこう教わったと思います。私も、ずっとそう信じていました。
しかし大人になってから、これは半分正しくて、半分はバグになりかねない考えだと気づきました。
「嘘をつかない」のは、確かに美徳です。
ですが、「本当のことを取捨選択せずに全部話す」のは、馬鹿正直なだけで、時にはトラブルを呼ぶ行動です。結果、自分も周囲も気まずくさせる原因にもなりかねません。嘘をつかない、と、全開示は別物なのです。
次の話は、正直に言いすぎて、場を凍らせた私自身の体験です。
職場のちょっとした雑談での失敗
職場のちょっとした雑談で、誰かが「父の日って何かするの?」と振ってきました。私は何も考えず「あ、父はもう亡くなっているんですよね」と答えました。
その瞬間、場が完全に凍りました。「あ、ご、ごめん……知らなくて……」。周囲が一気に気まずいモードになり、楽しい雑談は終了。内心「やらかした……」と思い何とかしようとしましたが、後の祭りです。
当時の私にとって、亡くなった父は(ひどい話ですが)「やっと終わった話」でした。
生前の父は理想的な父親ではなく、心の整理はとっくについていたのです。
でも、そんな事情を知らない周囲にとって「親の死」は重く受け止めるべき出来事。私が事実をサラッと答えたことで、周囲は「どう反応していいかわからない」状態になり、場を凍らせてしまったわけです。
これは私が無神経なだけで、嘘はついていません。
ただ、自分の温度感(軽い)と世間一般の温度感(重い)が違っている話題について、温度差を考えず馬鹿正直に答えてしまった結果です。
ここで反省したのは、事実を伝える時には、相手の温度感とのすり合わせまで含めて初めて適切な情報開示になる、ということ。
正解は多分「親孝行ですね~」と適度にぼかすことでした。
これは嘘ではありません。正直さを保ちながら、自分のプライベートな温度は外に出さない。これが大人の情報開示の作法だと悟った、私の失敗談です。
全部正直に答える人は、
子供と同じことをしている
「結婚してるの?」
「お子さんは?」
「年収どれくらい?」
「お住まいは?」
こういう質問に、馬鹿正直に「結婚してます。子供は2人です。年収は〇〇万円くらいです。どこそこに住んでます」と答える人が本当にいますが、これは果たして自分にとって良いことに繋がるんでしょうか?
残念ながら、こんなことを聞いてくる相手は、勝手にどこかでその情報を、無差別に再生して(時には誇張して)いく可能性のほうが高いです。
「あの人、あんな話してたよ」
「実は、ああいう事情らしいよ」
こんな感じで知らないところで、知らない人にまで広がっていく可能性があります。しかも、それを止める手段はもうありません。
何でも聞かれたら全部答える、というのは、親の管理下にある子供のスタイルです。
大人は、開示する情報の範囲を、自分で選ぶ権利を持っていますし、「聞かれたら答えないと不誠実」でもありません。どこまでは開示する、ここからは答えない、は特に自分一人の話ではない場合、ちゃんと線引きをするべきです。
「でも、聞かれて答えないのも感じ悪いと思われたら嫌だし……」と、思う方のために、嘘をつかずにかわす返しの技をお伝えします。
①プライベート系の質問への返し
「結婚してるの?」→していないことを伝えて良いと思っても、言うならせいぜい、「ご縁があれば~」「いずれ~」程度でいいです。
「今付き合っている人がいるんですけど~」とか、「この間、別れたばっかりで~」は、相手の好奇心の格好の的です。
「お子さんは?」→いてもいなくても相手には関係なさそうなら正直に答えなくて良いですが、いないことを言わざるを得ない場合は「授かり物ですしね~」くらいで終わりです。
子供が欲しくない家族だっていますし(うちはそうです)、欲しくても授かれない家族だっています。そこまで、いちいち説明なんてしなくて良いのです。
「年収は?」→「ぼちぼちですよ~」。関西人なら「ぼちぼち」が無敵です。その他の地域の方は「ほどほど」で。
具体的な数字や事実は伏せたまま、相手の質問だけは受けたふうを装う返し方です。
これで引かない相手は詐欺師か何かだと思ったほうがいいくらい「普通は人に聞かないだろう」という内容です。
②逆質問でかわす
「あなたはどうなの?」と聞き返すのも時に有効です。
「◯◯さんはどうなんですか?」
これに相手が答えなかったら、こちらも答えなくていい雰囲気が成立します。
逆に、相手が答えてきた場合も、その情報に乗っかって「へぇ~優秀なお子さんそう~」「素敵ですね~」と相手を持ち上げて、自分の話には戻させない。主役を相手に渡し続ける返しも有効です。
③多様性で煙に巻く
最近、使い勝手がいいのが「多様性」というキーワードです。
「最近は多様性の時代ということもあって、パートナーって言われたら相手が同性か異性か聞くのも、ちょっと遅れてる感じしますよね。結婚以外の関係も大事にしていく風潮ですし、私もあまり聞かないようにしようって、最近ネットニュースとかを見て思いました~」
こんな返しをされたら、相手も突っ込みづらくなります。時代の常識を盾に、自分のプライベートも守れる、便利な返しです。
他人からの「善意の介入」に注意
ここで、もう一つ大事な話をします。
私は前にも書いた通り、母とゆるふわ絶縁中です。
しかしこの事実、職場でも知人関係でも、ほぼ誰にも話していません。なぜかと言うと、正直に話すと、必ず「介入してくる人」が現れるからです。
「お母さんなんだから、話せばわかるよ」
「身内で疎遠なんて、悲しいよ」
「あなたが歩み寄れば、変わるかもしれないじゃない」
こういう「善意の介入」が、私が時間をかけて固めてきたゆるふわ絶縁を崩そうとしてきます。
実際、身内との不仲を正直に話してしまった別の知人が、こういう介入を受けて被弾しているのを何度も目の当たりにしてきました。ゆるふわ絶縁は、何年もかけて、各自が自分の心の安定を取り戻すために構築した防衛線です。
それを「身内なんだから」という古いOSの善意で崩されたら、たまったものではありません。
つまり、秘密を持つということは、自分の決断を周囲の介入から守る防衛壁でもあるわけです。
何でもオープンにすることが正しい、というのは情報リテラシーが整っていない時代の感覚ですから、自分はさっさとアップデートしてしまいましょう。
現代は、自分の人生の選択を、自分以外の他人にどこまで開示するかを、自分でコントロールするべき時代です。
自分のことを何でも他人に話してしまう人は、
他人の秘密も漏らしやすい
さらに重要な視点があります。
何でもかんでも他人に話してしまう人は、実は他人の秘密も漏らしやすい人ということです。
理由はシンプルで、「自分の秘密を守る訓練ができていない」から、他人の秘密も同じように扱う可能性が高くなります。
逆に、自分だけの秘密を持っている人は、「言わずに済ます」「胸の内に留めておく」という訓練が日常的にできています。
だから他人から打ち明けられた話も、自然と心の中に留められる。
つまり、自分の秘密を作るということは、信頼できる人になる訓練でもあるし、これは結構、大事な視点だと私は思っています。
元内科の精神科専門医
中高生時代イジメにあうが親や学校からの理解はなく行く場所の確保を模索するうちにスクールカウンセラーの存在を知り、カウンセラーへの道を志し文系に進学。しかし「カウンセラーで食べていけるのはごく一部」という現実を知り一念発起し医師を目指し理転後、都内某私立大学医学部に入学。奨学金を得ながら勉学とバイトに勤しみ大学を卒業。医師国家試験に合格。当初、内科医を希望したが医師研修中に父親が亡くなった喪失体験も重なり休職に至る。この時医師になることを諦めかけるが先輩の精神科主治医と出会うことで精神科医として「第二の医師人生」をスタート。精神科単科病院にて様々な分野の精神科領域の治療に従事。アルコール依存症などの依存症患者への治療を通じて「人間の欲望」について示唆を得る。現在は双極性障害(躁うつ病)や統合失調症、パーソナリティ障害などの患者を対象とする開業医として診察にあたる。「よりわかりやすい、誤解のない精神科医療」の啓発を目標に、医療従事者、患者、企業対象の講演等を行う。うつ病を経験し、ADHD(注意欠如・多動症)をもつ医師としてX(@DrYumekuiBaku)でも人気急上昇中。Xフォロワー9.2万人。著書に『発達障害、うつサバイバーのバク@精神科医が明かす 生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』(ダイヤモンド社)、『依存メンタルを力に変えるレッスン』(大和書房)がある。




