これはトランプ氏が昔から好む交渉方法の一つである。制度そのものよりも、自分自身を交渉の中心に置き、「私と良い関係を持っていれば、あなたは得をする」と思いこませるという手法だ。

 たとえば、第一期政権の北朝鮮外交でも、トランプ氏は金正恩氏を「友人」と呼び、首脳間の「特別な関係」を繰り返し強調している。その一方、2019年のハノイ会談では条件が折り合わないと見ると合意せず席を立ち、個人的な友好関係を作ることと、政策上の譲歩をすることは同じではないことを示した。

 今回の習近平氏への厚遇も、同じ手法の延長線上にあると考えれば理解しやすい。そして、本当の交渉は、相手が個人的関係に価値を感じるようになった後から始まるのである。今回の国賓待遇がそうした計算の一部だったとすれば、「トランプは習近平に甘い」という見方は適切とは言えないだろう。

 もちろん、ホワイトハウスがファクトシートで「習近平を個人的に依存させるために国賓待遇した」と説明しているわけではないが(そんなことしたら「元の木阿弥」だ)、これまでのトランプ氏の交渉パターンを見て、私はその見方のほうが有力だと考える。

「レアアースカード」には限界がある

 トランプ氏に今すぐ中国と正面衝突する必要がない理由がもう一つある。レアアースだ。

 現在、中国は重要鉱物や永久磁石で極めて強い交渉カードを持っている。実際、ロイターは今回の首脳会談前、中国のレアアース支配がトランプ政権の対中姿勢を慎重にさせていると報じていた。

 アメリカが中国への関税や技術規制を強めれば、中国は重要鉱物の輸出を絞ることができる。

 ただし、レアアースカードには限界がある。アメリカ、日本、オーストラリアなどは、中国依存から脱却するための供給網整備を急いでいる。日本と米国は重要鉱物、精錬、リサイクル、永久磁石などで協力を深めている。

 中国が有するレアアースカードは短期的には強力な外交的武器となるが、時間がたつほど弱くならざるをえないのである。

 それを前提とすると、トランプ氏が行った習氏の「国賓厚遇」が合理的であることがわかる。