日本は、1990年代のバブル崩壊以降、約30年にもわたってほとんど経済成長ができないという、世界的にもまれに見る「大失敗」を経験しましたが、こんなことは、よほど基本的なところで経済政策を間違えなければ起きるはずがない――。高市政権の経済ブレーンである会田卓司氏と松本賢氏は最新刊『何が日本経済を壊したのか』(ダイヤモンド社)でそう主張する。つまり、現実の経済が動いている「基本的な仕組み」を理解すれば、「何が日本経済を壊したのか」をはっきりと理解できるようになるというのだ。では、その「基本的な仕組み」とは何か? 解説していただいた。

「財政赤字=悪」と決めつける議論がいかがわしい“明確な理由”とは?Photo: Adobe Stock

「誰かの支出は、誰かの所得である」の重要な意味とは?

 現実の経済が動いている「基本的な仕組み」とは何か?
 誤解を恐れず大胆に言い切ってしまうと、「誰かの支出は、誰かの所得である」――突き詰めれば、この一点にたどり着きます。

 たとえば、あなたがパン屋さんでパンを買うために200円を支出したとしましょう。そうすると、あなたの財布からは200円がなくなります。

 しかし、あなたが使った200円はパン屋さんの所得となり、パン屋さんのレジのなかのお金が200円増えます。「誰かの支出は、誰かの所得である」とは、そういうことです。

「何を当たり前のことを言ってるんだ……」と思うかもしれません。だけど、メディアなどでは、意外と、この当たり前のことを忘れて、経済が論じられているのを見かけることがあるのです。

 でも、そのことはあとで触れることにして、話を先に進めましょう。この「誰かの支出は、誰かの所得である」という基本を理解するうえで大事なのは、全体の収支は「0円」でバランスするということです。

 つまり、あなたがパンを買った瞬間をとらえれば、あなたの収支(所得から支出を引いた金額)は「マイナス200円の赤字」、パン屋さんの収支は「プラス200円の黒字」となって、この二つを足すと、全体の収支は「0円」でバランスするということです(下図参照)。

「誰かの支出は誰かの所得である」という原理の図解

 これも当たり前のことですよね。200円というお金が、あなたからパン屋さんに移動しただけのことですから、そうなるに決まっています。ただ、この当たり前のことが、日本経済という巨大な仕組みにおいても、そのまま当てはまるということが重要なのです。

複雑で巨大な「日本経済」の、超シンプルな「原理」とは?

 順を追って説明しましょう。まず押さえておくべきなのは、日本の国内だけに絞れば、次の三つの経済主体が存在していることです(話をわかりやすくするために、ここでは「海外」は無視します)。

 1 家計部門:国内のすべての世帯をひとまとめにしたもの
 2 企業部門:国内のすべての企業をひとまとめにしたもの
 3 政府部門:中央政府や地方自治体などをひとまとめにしたもの

 そして、企業や政府が家計に「給料」を支出し、政府が家計に「社会保障給付」などを支出し、家計や政府が企業に「商品やサービスの購入代金」を支出し、家計や企業が政府に「税金・社会保険料」などを支出するといった形で、三者の間をお金がグルグルと循環することによって、日本経済は成り立っているのです。

 この循環プロセスは巨大で、ものすごく複雑です。だけど、一つひとつの取引を見れば、結局は「誰かの支出は、誰かの所得である」という話。その仕組みは、さっきのパン屋さんの例と全く同じなのです。

 つまり、「誰かの支出」の裏側には必ず同額の「誰かの所得」が存在しているため、国内の「家計部門」「企業部門」「政府部門」の収支のすべてを足し合わせると、絶対に「0円」でぴたりとバランスすることになります。

 下図を見てください。これは、「家計部門は5兆円」「企業部門は6兆円」「政府部門は3兆円」を支出すると仮定した場合の収支をシミュレーションしたものですが、三つの経済主体の収支を足し合わせると「0円」になります。

 もちろん、支出額を変えても結果は同じ。必ず全体の収支は「0円」になります。これは数学的な真理であり、「家計収支+企業収支+財政収支」は常(恒)に「0」に等しくなることから、これを経済学では「恒等式」と呼んでいます。

「黒字」が存在するためには、「赤字」が存在しなければならない

「だからどうしたの?」と思う人もいるでしょう。

 しかし、実は、これこそが経済を理解するための最重要ポイントなのです。なぜなら、これによって経済全体の大きな仕組みが見えてくるからです。