売らずに満期までもっている場合、満期がくるごとに、元本以上の高値で買い入れた分は損失を出す。また、経済全体の金利(収益率)が上がる中で収益率マイナスの資産を大量に抱えることになり、機会損失がある(それは政府への納付金の減少をつうじて実質的に国民の増税になる)。

 民間金融機関も、長期にわたるゼロ金利で稼ぎようがなく、収益への大きな打撃を受け、海外証券投資などのリスクも抱えざるをえなかった。今後の金利上昇は収益増加要因となるが、国債の値下がりは損失になる。

 国債等の大量購入によって民間金融機関に手渡されたベースマネーは、金融部門以外の経済に出ていった部分が少なく、金融機関手元(実際には多くは日銀当座預金)に滞留している。

 このストックが何らかの要因で経済に出てくると、インフレあるいは資産インフレ(バブル)を急速に起こす恐れが常にある。このことも念頭に置かなければならない。

 正常化のために、これら資産を縮小していく必要がある。しかし値崩れを招いて混乱を起こしてはならないため、細心に市場と対話し、動揺を避けて、協調の益が得られるよう、慎重に進めるほかはない。

 仮に売却を行わず、満期を待つ方法をとるとすれば、少なくとも10年以上かかる計算になる(注2)。

 きわめて困難な、長く苦しい課題を課せられている。しかし乗り切る以外にない。

 異次元緩和政策というリフレ派理論の実験の失敗について、同グループからは消費税の引き上げが原因であるとの意見が聞かれた。

 しかしそれは彼ら自身の主張と矛盾する。なぜなら同派は、財政政策は無効で金融政策のみが有効だと主張していた(注3)のであり、財政政策が無効なら、増税が水をかける効果もないはずだからである。

著名な経済学者の権威に
頼るべきではない理由

 最後に1つ付け加えておきたい。リフレ派はしばしば、日本に金融緩和を勧めた著名な米経済学者の権威を借りた。

 日銀は無責任になるべきだと主張したポール・クルーグマンが最も影響を与えた(彼はのちに撤回し自己批判した)ほか、ベン・バーナンキ、ローレンス・サマーズ、マイケル・ウッドフォード、ジョセフ・スティグリッツ、ケネス・ロゴフ、アダム・ポーゼン、浜田宏一といった人々である。

 もちろん微小デフレでほぼゼロ成長の経済に対して金融緩和を勧めるのは、大まかには常識的なことだが、具体的な提言は事情を知る人がすべきなのである。

 いかに大学者であっても、自国のことのように責任感をもち、時間と労力を割いて事情を調べる作業をへなければ、信憑性は保証されない。そしてこんにちでも他国の本当のことはわかりにくい。何よりも、権威を借りようとすべきではない。教訓だろう。

(注2) 山本謙三(2024)『異次元緩和の罪と罰』講談社現代新書129-136、191、258-259ページ。
(注3) たとえば岩田規久男編著(2004)『昭和恐慌の研究』東洋経済新報社。