令状を手に持ち、室内に入ってくる警察官写真はイメージです Photo:PIXTA

刑事ドラマでは、警察が靴を脱がずに事件現場へ入るのはおなじみの光景だ。だが、日本では家に上がるとき靴を脱ぐのが当たり前。それなのに、なぜ警官だけは土足で踏み込むのか。明治期の挿絵やミステリー小説をたどると、その意外に古い歴史が見えてくる。※本稿は、建築史家で風俗史研究者の井上章一『日本人はなぜ家で靴を脱ぐのか』(新潮社)の一部を抜粋・編集したものです。

事件現場へ警察官たちは
土足のまま家に入った

 図25-1は1891年にえがかれた。犯罪をあつかったある連載小説の挿絵である。まだ、今日のような銃規制はない。少なからぬ人が護身用の銃を携帯した時代の小説である。ごたぶんにもれず、この被害者もピストルにうたれ、たおされた。

図25-1 右田年英挿画 半井桃水連載「月黄昏」同書より転載 拡大画像表示

 画面中央の警部補は、事件当日の来客である代言人とむきあい、質問をぶつけている。なお、代言人とは弁護士をさす、当時の呼称である。右端の警官は、両者のやりとりを書きとめていた。

 この警官が靴履きであったかどうかは、判別できない。靴かもしれないし、靴下の可能性もある。ただ、質問を繰り出す警部補は、この家へ土足であがりこんでいる。左端でしゃがむ者と代言人は、靴下だけだったのに。官憲は事件現場へ土足でのりこみうる。そのことは、19世紀からみとめられていた。