日本では長年、妊娠中の体重管理が重視されてきた。妊娠中の体重増加の目安を10~13kgとし、妊婦の食事指導などを行う医療機関もある。そのため、「いつもお腹がすいている」と訴える妊婦の声をよく聞く。

 関連があるかはわからないが、日本では低出生体重児(2500g未満)の割合が他国と比べて高い。OECDのデータによると、日本の低出生体重児の割合は9.6%(2023年)で、先進国の中で最悪水準だ。

 日本には「小さく産んで大きく育てる」という考え方がある。一方、中国では近年、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病に注意が払われるようになったものの、多くの家庭では依然として、「2人分を食べなさい」と妊婦にたくさん食べるよう促している。

 鶏を丸ごと1羽使ったスープや黒砂糖入りの卵料理などで、たっぷり栄養をつけさせようとする。高齢の世代には、生まれたときの体重が重いほど、丈夫で頭の良い子に育つという考え方がある。

 上述のような食べ方や妊婦の健康管理などの違いは、両国における「身長」の重要度の相異が関係しているかもしれない。

 環境が変われば、同じ身長でも評価が変わる。身長とは、単なる身体的特徴であると同時に、それを見る社会の価値観を映す鏡でもあるのだ。

 冒頭で紹介した、イギリスの総合医学雑誌『ザ・ランセット』が2020年に掲載された論文では、1985年から2019年までに、中国の19歳男性の平均身長が8.1cm伸び、その伸び幅が世界一であることが明記されている。

 食環境の変化を示す数字の一つが、FAO(国連食糧農業機関)の「食料供給エネルギー」だ。過去40年近くの間で、日本と中国の「1人1日当たり食料供給エネルギー」はどう変化したのか。

 1985年に中国は2435kcal、日本は2841kcalだった。実は日本のほうが、「1人1日当たり食料供給エネルギー」は高かったのだ。

 しかし、2022年には中国が1人1日当たり約3440kcalだったのに対し、日本は約2690kcal。中国のほうが約750kcal、3割近く高くなった。

 かつて栄養不足が大きな社会問題だった中国で、経済発展とともに食料供給が大幅に増えた一方、日本との間にはいま、これほどの差が生じている。

 そして、この差は広がりかねないと考える。

 近年の日本では、円安や物価高、実質賃金の低下などによって一般家庭の家計が圧迫されており、食卓への影響も避けられないだろう。また、1日の食事を1〜2食に減らしたり、お菓子やゼリー飲料などで済ませたりしている若者が増え、「食事キャンセル界隈」という言葉まで登場している。日本人の食べる量は今後も増えそうにない。

「平均身長」は、国の豊かさの変化や子育て観、食文化、教育観まで映し出す、一つの物差しなのかもしれない。