リード線を使ってトレーラー側面の蝶番を再現しても、「事故原因を説明するだけなら、こんな細部を再現して意味があるのか?もっと概念的な模型でいいのではないか?」と考え込んでしまい、製作中は常に葛藤を繰り返しました。

睡眠3時間で完成させた
模型は裁判でも使われた

 生まれて初めてのスクラッチビルドは、通常勤務をしながら3週間で完成しました。その間の睡眠時間は1日3時間ほどだったと思います。手間も時間もかかった模型でしたが、題材は事故の原因となった車両です。「息子の命を奪った相手車両」としてご遺族に拒否されても仕方がない……と、覚悟を決めて完成させました。

 完成後、私はご遺族のもとを再び訪ねました。事故現場の検証に有効なのではないか、という意図を詳しく説明した上で、

「実は、こんなものを作ってみました」

 と恐る恐る牽引車とトレーラーの模型を差し出しました。ご両親の表情に浮かんだのは、まず驚きでした。そしてしばらくして口から出たのは、

「こんなにまでして作っていただいて……」

 という感謝の言葉でした。報道の意図を理解した上で感謝の言葉までいただけて、一気に肩の力が抜けました。同時に、睡眠不足の疲れも吹き飛びました。

『私とプラモデルの半世紀』書影『私とプラモデルの半世紀』(松井康真、中央公論新社)

 ご両親の許可をいただけたことで、改めて模型をスタジオに持ち込み、局の美術部に作ってもらった事故現場の交差点を同スケールで再現したボードの上で、事故の再現映像を収録することになりました。寸法の合っている模型を用意でき、この日の撮影は無事成功しました。当時最新の超小型CCDカメラも使ったことで、より詳細で分かりやすく、リアルな再現映像を撮影できたと思います。

 鑑定人の駒沢先生にも「これはすごい。分かりやすく事故を再現できる」と褒めていただき、実際にこの模型は裁判での説明にも使われることになりました。結局、このトレーラー事故については、駒沢先生がお弟子さんと作った鑑定書が採用されて、完全逆転判決が出ています。

 この一連の出来事は、「模型作りは、使いようによっては報道の武器にもなる」と実感した大きなきっかけとして、深く記憶に残っています。