年収の壁を超えて働く理由
1位は社会保障の充実
社会保険の適用を受けると、それまで負担のなかった厚生年金保険料、健康保険料(40歳以上は介護保険料も)、子ども・子育て支援金などが給与から天引きされる。
例えば、Aさんが時給1100円で週20時間(月86.6時間)働いた場合、月額賃金は約9万5000円だが、社会保険料が約1万5000円差し引かれるので、手取りは8万円程度になる。
だが、同じ時給で1週間の労働時間を19時間(月82.3時間)に抑えたBさんには社会保険は適用されない。月額賃金は約9万円でAさんより少ないが、差し引かれる社会保険料が雇用保険料の約500円だけなので、手取りは約9万円をキープできる(26年度。40歳以上で健康保険は東京都の協会けんぽの場合)。
このように、たった1時間の労働時間の差が手取りの逆転現象を起こすため、目先の収入だけを比較すると、就業調整して社会保険の適用を受けない方がお得に見える。
だが、保険料を納めた分、それに比例して年金保険も健康保険も、万一のときにもらえる給付も増えていく。
Aさんが40歳~60歳までの20年間、同じ条件で働いた場合、老後にもらえる年金には、年間約15万円の老齢厚生年金が上乗せされる。65歳~95歳まで30年間、受け取った場合の総額は約450万円だ。
95歳以前に亡くなると年金の受給総額はこれよりも少なくなるが、国の年金は一生もらえる終身年金なので、長生きした場合はさらに受取額が増える。
メリットは老後の年金の増額だけではない。自ら保険料を納めて被用者保険に加入している労働者は、健康保険から「傷病手当金」「出産手当金」という2つの給付を受けられる。
傷病手当金は、病気やケガで仕事を休んで給与をもらえなかったり、減額されたりしたときにもらえる所得補償だ。1日当たりの給付額は日給の3分の2。支給日数は通算1年6カ月分で、3日連続で休んだ後の4日目から支給を受けられる。
出産手当金は、被用者の女性が妊娠・出産で仕事を休んだときの給付だ。1日当たりの給付額は傷病手当金と同額で、日給の3分の2。産前42日間(多胎児は98日間)と、産後56日間の給付が受けられる。
また、病気やケガで障害が残った場合に備えて、障害基礎年金に加えて障害厚生年金の上乗せもある。自分で保険料を納めて被用者保険に加入した方が、配偶者の扶養に入っているよりも万一の病気やケガ、障害に対するリスクヘッジができるのだ。
こうした情報がじわじわと浸透してきたおかげで、社会保険の適用を受け入れる短時間労働者が増えてきているといえるのだ。実際、短時間労働者が社会保険の適用を受けた理由として、保障の充実を挙げる人は多い。
厚生労働省所管の労働政策研究・研修機構の調査シリーズ「『社会保険の適用拡大への対応状況等に関する調査』(企業郵送調査)及び『働き方に関するアンケート調査』(労働者Web調査)結果」によると、「厚生年金・健康保険に加入した(したい)理由」として、「将来の年金額を増やしたいから」が36.6%、「病気やケガ、出産の際の保障(傷病手当金や出産手当金)が充実するから」が11.0%、「障がい・遺族年金が充実するから」が5.0%。合計すると52.6%の人が、保障の充実を理由に挙げている。







