「~のほう」と言いたくなる
日本人の心理を読み解く

「クッション言葉」とは、相手に不快感を与えないよう、直接的な物言いを避けるための表現です。相手にとって不快と思われる内容を伝える前に添える「前置き」や、断定的な言い回しを避ける表現が使われます。

 たとえば「~のほう」とぼかしたり、「つらい」を「つらみ」と語尾を変化させて衝撃を和らげたりする手法も、同じ狙いがあります。人との衝突を避けたい、相手を傷つけたくない、と常に気遣う日本人にとって、非常に便利な言葉といえるでしょう。

 一方で、相手との関係悪化を過度に怖がったり、「自分がどう思われるか」を考えすぎたりして、過剰なクッション言葉が使われる傾向も目立ちます。

 クッション言葉が広まった背景には「バイト敬語」の影響が考えられます。

 バイト敬語とは、コンビニやファミレスなどで接客のアルバイトをする若者が、お客様に失礼にならないように学ぶ、マニュアル化された丁寧語表現です。敬語に不慣れな若者が接客時に「お客様を怒らせてしまうのではないか」「失礼な言い方になっていないか」という不安から、教えられた通りのマニュアル敬語を使うようになったのです。

 具体的には「~円になります」「お料理のほうは~になります」「よろしかったでしょうか」など、独特の言い回しがあります。多くは不自然な丁寧語で、専門家や年配世代には違和感を持たれることも少なくありません。とはいえ、若い世代には一定程度定着しているのが実態でしょう。学生時代にアルバイトでこうした表現を身につけた結果、社会人になってからもビジネスの場で使ってしまって恥ずかしい思いをするケースもよくあります。

 もっとも、バイト敬語は必ずしも悪いものではありません。敬語の使い方がわからない若者にとっては、敬語の「入門編」として機能している側面もあるからです。家庭で敬語を使う機会が減った今日、バイト敬語は敬語習得の貴重な機会ともいえるでしょう。

 敬語は互いの関係性や場面に応じて使い分けるものです。マニュアルで学んだ表現は固定的なものではなく、どこでも通用するわけではありません。マニュアル敬語を出発点として、その後は状況や関係性に応じて柔軟に使いこなせるようになることが望まれます。