ビジネスの世界では「話し方」一つで大成功を手にすることもあれば、大損失を被ることもあります。ただし、口がうまいからと言って仕事ができるわけではなく、むしろ口下手の方が結果を出すケースも少なくありません。ビジネスで求められる実践的「話し方」とは?この特集ではあなたの「話し方」を劇的にアップデートする書籍を厳選しました。今回は『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』から、スピーチで不評を買う残念な会社員が知るべき、スベらない「言葉磨き」の秘訣をお届けします。(ダイヤモンド社デジタル編成部副部長 大堀達也)

あなたの「話し方」が変わる!『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』Photo:PIXTA

テーマも構成も問題なし!なのに
いつもスベってしまう理由は?

 雑誌編集者の日常的な仕事として、大学教授など知識人への原稿依頼があります。専門家ならでは深い洞察や鋭い分析を誰よりも早く読めることは、編集職の醍醐味です。

 しかし、読み応えある「玉稿」ばかりとは限りません。ときには「流れるようにスラスラ読めるのに、なぜか心にまったく残らない……」という“編集者泣かせ”の原稿が届くこともあります。

 文章は整っているのに、いま一つ何を言いたいのかよく分からない原稿には、共通する“残念な特徴”があります。

 その一つが、「ビッグワード(Big Word)」をたくさん使って書いた文章です。

 ビッグワードとは「抽象度の高い言葉」のことです。平たくいうと、「モヤモヤとした分かりにくい言葉」です。例えば、「ビジョン=将来像」「バリュー=価値」「ミッション=使命」……など。これらの言葉は、どれも重々しい響きはありますが具体性に欠けます。「経営計画で掲げたビジョンの実現に向け、社会的使命を果たして企業価値を高める……」といった文章は、それだけだと、まるで中身がありません。

 私は若い頃、取材相手が発した言葉をそのまま拾って、ビッグワード満載のインタビュー記事を構成したところ、先輩から「ちょっと何言ってるか分からない!」と叱られました。

 抽象的ゆえに読み手の解釈に幅があり、意図が正確に伝わらないという欠点があるビッグワード。これを多用した原稿は、私たちのメディア業界では典型的な「悪文」として敬遠されます。そこで編集者は、分かりやすい言葉に置き換える「言葉選び」のスキルを身に付けるために文章修業をするのです。

 さて、こうした言葉選びは、ビジネスパーソンがステップアップするために身に付けておきたい「スピーチ」にとっても、非常に重要です。

 プレゼンテーションで熱弁をふるうたびに、聴衆がピンと来ない顔をする……という苦い経験がある人は多いでしょう。スピーチのテーマが明確で全体の組み立ても問題ないのに、なぜか不評を買ってしまう人は、言葉の選び方に失敗して、スベっている可能性があります。

難しい熟語でカッコつけずに、
中学生でも分かる平易な言葉で

 スピーチの達人を目指す会社員なら必携の参考書、『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』では、スピーチ原稿を準備する際の重要ステップとして、「言葉磨き」を挙げています。これは前述した言葉選びと同意です。

 大企業トップのスピーチライターを務めた実績がある著者の佐々木繁範氏は、「スピーチは耳で聞いて理解しやすい、『話し言葉』をつかわなければなりません」と指摘します。そのうえで、一度聴いただけでスッと分かる言葉に置き換える作業のポイントを紹介しているので、次に抜粋します。

・短く簡潔に書く
・できるだけ受身形を使わない
・難しい熟語を使わずに、中学生でも分かるくらいの平易な言葉で書く

 このうち、特に大事なのが三つ目です。「言いたいことを真に理解して自分のものにしていないと、やさしく書くことはできません。平易な言葉で簡潔に書くというのは、とても高度な技術でもあるのです」(佐々木氏)。

 アメリカでもスピーチ原稿を用意するときは、中学生レベルの語彙を用いて書くことがよいとされているそうです。難解な言い回しで格好を付けず、とにかく「平易」な言葉で表現することが大切と説く佐々木氏は、次のような言い換え例も紹介しています。

早急に → できるだけ早く
喫緊の課題 → すぐに取り組まなくてはならない課題
時代に適合した → 時代に合った
○○を巡る諸問題 → ○○についてのさまざまな問題
掌握する → しっかりとつかむ
環境を整備する → 環境をととのえる、環境をつくる

 もちろん、スピーチの「話し言葉」と原稿の「書き言葉」で、磨き方はまったく同じではありませんが、「分かりにくい言葉を使わない」ことを理想とする点で通じるものがあります。

『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』の本文では、アップル創業者スティーブ・ジョブズや、世界的な大ベストセラー『ハリー・ポッター』シリーズの作者J・K・ローリングによる伝説的スピーチの原稿を例に取り、スベらない言葉磨きの秘訣を明かします。

『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』の本文はこちら

『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』書影

目次/プロローグ/part1 スピーチの核をつくる 1章 相手を知る ─どんな場で、聴衆は何を期待しているか
 
part1 スピーチの核をつくる 2章 メッセージを絞る ─最も伝えたいことを明確にする

part2 話を効果的に組み立てる 3章 全体構成とボディ ─伝わりやすい構造、順番を考える
 
part2 話を効果的に組み立てる 4章 オープニング ─導入部で聴衆の注意を引きつける

part2 話を効果的に組み立てる 5章 クロージング ─記憶に残る終わりかた
 
part3 原稿づくり、リハーサル、そして本番! 6章 リハーサル ─原稿づくりから前日の準備まで

part3 原稿づくり、リハーサル、そして本番! 7章 デリバリー ─壇上での立ち振る舞いから質疑応答まで/エピローグ 

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