米国のロールアップの事例が示しているのは「職人は働く立場であると同時に、プラットフォームの株主である」点である。ブルーカラーの職人でも、地方の金融やPEファンドと組んで会社を売却し、その創業者が大金持ちになれたら日本の資本主義はもっと活気づくだろう。

町工場の息子が父親よりも
稼ぐ未来は実現するのか

 そして、ブルーカラー企業がPEファンドと組んで買い手になる事例も多々ある。米国のケン・グッドリッチ氏が有名だ。幼いころから懐中電灯をもって父親のエアコン修理作業を手伝っていた氏は、ホームサービスの企業を引き継ぐ。

 しかし、氏が買収した企業は資金繰りから経営難に陥り、経営方針の見直しが急務となる。そこで氏は、修理を請け負って日銭を稼ぐモデルから、仕組みづくりによる経営方針の転換を行う。

『The E-Myth HVAC Contractor: Why Most HVAC Companies Don’t Work and What to Do About It』(未邦訳)に詳しいが、氏はマーケティングや職人のオペレーションやシステムの大胆な導入によって、自分が動かなくても収益が入るモデルを志向する。マニュアルや手順書による、誰でも同レベルで再現できる事業運営の重要性が何度も説かれている。

 氏は職人ではなく、職人を管理するマネージャーでもなく、起業家にならねばならないといっている。自分が活躍しなくても収益を稼ぐビジネスモデルであれば、他社(者)に売却もできる。

 日本では「1人親方」といって職人1人がすべてをこなすモデルが大半だが、米国には拡大志向ゆえに、元ブルーカラーでもビリオネアになる起業家が多くいる。

 あのハーネス工場の息子がいつか地方に帰る日が来るかもしれない。それは父親からの恫喝によってではなく、町工場を継ぐことが誰に恥じることもない、むしろ誇らしい選択であり、何より儲かるからだと、彼自身が心から思える日が来たときだ。

 その日を、私は本気で見たいと思っている。そしてそのとき父親は照れくさそうに、こういうのではないか。「あいつは、私より稼ぐだろう」と。