フランス全土に広がる学生・教職員のデモ。教育費増加や賃上げの要求は歳出圧力となり、公的債務削減を困難にしている。 Photo:Sener Yilmaz Aslan/gettyimages
フランスは公的債務残高が膨大となり、金利急上昇に悩まされる。一方で、教育環境の改善要求が全国的に高まるなど歳出抑制は困難な状況にある。政治の左右分裂が広がり、リーダーシップがとれなくなっている。どんな対処策が適切か。かつてより深刻な経済危機にあったギリシャの再建に財務相として奔走したヤニス・バルファキス氏が自身の経験を基に考察する。
フランスの公立学校のみじめな状況に対する怒りは、全国規模の抗議行動をもたらしたが、これも慢性的な財政緊縮のひとつの症状だ。それにもかかわらず、いっそうの財政引き締めを求める声は止まない。フランス中央銀行のエマニュエル・ムーラン総裁は、「金利上昇によりジワジワと締め上げられていくリスク」を避けるため、大幅な予算削減を求めている。
もしそうなれば社会的緊張はさらに高まり、絶対不可欠な投資が壊滅してしまう。すでにドイツが産業の空洞化に直面し極右勢力への支持が拡大している中で、フランスの公的債務は、欧州にとって次なる争点になりつつある。
こうした背景のもとで、「不服従のフランス」(編注:急進左派)党首として大統領選にも出馬したジャンリュック・メランションは、フランスの累積債務の18%に相当する6000億ユーロ(6730億ドル)に関する処理を提案した。これはフランス中銀が満期まで保有する予定の国債だが、満期が来れば、フランスの納税者に増税を強いるか新規の国債発行によって自国の中央銀行に返済しなければならない。
メランションは、フランス国家のひとつの部門(行政府)が[新たに]6000億ユーロを借りて別の部門(中央銀行)に返済するというのは馬鹿げている、と指摘する。メランションの代案は、財務省と中銀のあいだでの債務スワップを行い、実質的に、その国債の償還により、どうしても必要な投資を進める財政的余裕を生み出すというものだ。
公正を期して言っておくならば、筆者にとってこの議論は他人事ではない。債務に関するメランションの構想は、短い任期ではあったがギリシャ財務相の座にあった筆者が2015年に示した債務スワップ案に基づいている。筆者の狙いは、欧州委員会と欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)が押しつけようとしていた愚劣なプランを回避することにあった。
当時、筆者は財務相に就任してまもなく、ECBが保有する満期を迎えた約60億ユーロ相当のギリシャ国債の償還を迫られた。ギリシャ国債を保有していたフランスやドイツなどの銀行を救済するため、2011年にECBが買い取ったものだ。だがギリシャ政府は財政破綻状態にあったから、まともな投資家なら、ECBへの償還資金をギリシャ財務省に提供してくれるわけがない。
そこで、ギリシャがECBに対する償還を行っているように見せかけるため、ECBとIMFは経営破綻したギリシャの各銀行に対し、80億ユーロ相当の債券を発行するよう求めた。償還を保証するのはこれまた破綻しているギリシャ財務省なのだから紙切れ同然だ。ECBはこれを担保として各銀行に60億ユーロを融資する。そのうえで財務省は投資家が誰も手を出さないような新規の国債を各銀行に売却してその60億ユーロを手に入れ、ECBに渡す。ネズミ講のように思われてもしかたがない。まさにそのものなのだから。
筆者の代案はシンプルだった。その時点でECBが保有しているギリシャ国債をまるごと同じ額面の永久債と交換し、その総額の1%に当たる額をECBに永久に払い続けるというものだ。特に斬新なアイデアではない。ちょうど同じ時期に、ジョージ・オズボーン英財務相は1752年に英国が発行した永久債を繰上償還している。1ユーロの償却もなく、ECBのメンツも保たれ、ギリシャ国民は一息つける。欧州としても、良識を備えた人間から見れば恥ずべきものにしか映らない仕組みと無縁でいられる。
メランションがいま提案しているのも同じことだ。フランス中銀がすでに保有しているフランス国債を、永久債に転換する。そうして生まれた財政的余裕を、好条件の雇用、教育、低所得者向け住宅への投資につぎ込む。メランションと筆者の違いは、彼の提案では永久債の利率が0%とされているが、筆者は利率を1%として「債務を帳消しにする気ではないか」という形式的な批判を封じ込めようとしたことだ。
この手法はインフレを招くだろうか。そんなことはない。永久債は新規の国債発行ではなく、マネーサプライを1ユーロも増やしはしないからだ。
では、ロラン・レスキュール仏財務相が主張するように、「フランス国家が預金者や生命保険会社、銀行に対する負債を返済しないという話」なのだろうか。これも違う。6000億ユーロはすでに債券市場から引き上げられており、預金者や生保、銀行に対する債務はない。その国債は、フランス自身の中央銀行の金庫に眠っているのだ。







