中国の成功を支えた真因は何か。「不正!」という非難は的外れだ。上海浦東新区の陸家嘴金融街。夜の光の道は、中国躍進の象徴的光景だ。 Photo: LEETHOVEN/gettyimages

中国はなぜ経済の急成長を遂げ、欧米を凌駕する強国になり得たのか。「不正を続けてきたから」という神話が根強くはびこるが、世界的ベストセラー『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の著者、バルファキス元ギリシャ財務相は、経済学に基づいて、その神話の誤りを解明する。その上で、「今日、世界の最優先課題は米中冷戦のエスカレーション防止である」と訴える。

 ペルシャ湾上空をミサイルや爆弾、ドローンが飛び交う中、それ以上に破滅的な影響をもたらす戦争が太平洋地域で生じる懸念が高まっている。今や、米国と中国間の新冷戦のエスカレート防止こそ、世界の最優先課題としなければならない。そのためには、戦争の可能性を高める強力な神話を粉砕することが必要だ。神話とはすなわち、中国は「不正」をして繁栄に至った、という考えだ。

 確かに中国経済はグローバルなマクロ経済の深刻な不均衡をもたらしており、対策は不可欠だ。しかしそれは、西側のエリートが自分の失敗をごまかすために編み出した、「中国の成功は、欺瞞や不誠実、ごまかしによるものだ」という安易なフィクションとは別問題である。安易というだけではない。戦争支持の西側世論を焚きつけているという意味において、危険でもある。

 この「神話」は、根拠のない五つの非難によって支えられている。第一の非難は、中国が西側企業の知的財産を「盗んでいる」というものだ。実際には、西側の多国籍企業は数十年にわたり、我先に、中国の巨大市場へのアクセスと引き換えに知的財産を譲渡してきたのだ。中国当局は50年先を見据えた構想のもとで、「どうやって製品を作っているのか中国人に教えてくれたら、中国市場に参入してもいい」と、抗いがたい魅力的なオファーを西側企業に示しただけだ。西側のCEOたちは目先の2~3四半期に気を取られ、華々しい中期展望に魅了されて、その提案を熱心に受け入れた。

 第二に、中国が通貨安を誘導しているという非難だ。「適正な」為替レートが存在するのに、中国当局は人民元をそのレート以下に抑えこんでいる、という想定である。理論上は、適正な為替レートとは各国の経常収支を均衡させる水準である。しかし実際には、米国の膨大な経常赤字が証明しているように、ドルは大幅に過大評価されている。

 要するに、中国が人民元のレートを不当に低く抑えているという非難は、裏を返せば、米国は他国から資本を吸い寄せることで自らの経常収支赤字を賄っているという非難になる。過大評価されたドルを頼みにしている西側諸国は、その意味でガラス張りの家で暮らしているようなものだ。石を投げてガラスを割るのは得策ではない。

 第三の非難がターゲットとするのは中国の資本規制で、これまた「不正」の一つだとされる。ところで我々は、資本主義の黄金時代、つまり1950~60年代のブレトンウッズ体制が、欧米と日本における資本規制を前提としていたことを忘れてしまったのだろうか。その論拠は簡潔だった。金融機関が落ち着きのない「ホット」なマネーを勝手に国内に蔓延させる、あるいは気まぐれに資金を無制限に国外流出させることを容認するのは、どの国の政府にとっても、法的・倫理的に課せられた義務ではない、ということだ。

 神話を支える第四の柱は、中国産業が大幅な生産過剰に陥っているという主張だが、これはデータによって否定されている。中国の設備稼働率は75%以下で推移しており、これは米国を下回っている。在庫水準は安定している。中国の輸出企業の利益率は10%以上増加している。つまり、生産過剰など見当たらない。

 この告発は、西側当局にとって本当に不都合な事実を糊塗するために利用される。すなわち、中国の非常に高い競争力は、最重点分野に注力する優れた計画と投資、低コストの教育訓練によって達成されたという事実だ。シュツットガルトやイリノイの企業が試作品を一つ作るあいだに、深圳の企業ならはるかに少ないコストと時間で四つの試作品を送り出せるのだから、中国の競争力はダンピングによるものだなどという結論に説得力はない。しかし、そうした主張の方が、「中国は独自に分散型ニューラルネットワーク製造インテリジェンスを開発した」と有権者に説明するよりも、西側の指導者にとっては心地よいのだ。