NATO解体が、欧州にとって必要な、これだけの理由ルッテNATO事務総長(左)はトランプ米大統領との関係構築に腐心しているが…。 Photo: AFP/アフロ

NATO(北大西洋条約機構)は、欧州にとって何のためにあるのか。『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の著者、バルファキス元ギリシャ財務相が、欧州の利害と対立を深めている米国との同盟について深く考察します。

 欧州各国で、「欧州防衛連合」という構想が勢いを増している。だが、NATO(北大西洋条約機構)が引き続き欧州の安全保障を仕切っていく限り、実効性のある独自の防衛同盟を構築できる見込みは薄い。防衛において(さらにはもっと広い意味でも)「主権」を行使できるようになるには、欧州はNATOに終止符を打たねばならない。およそありえない話に思えるが、同時に必要でもある。

 現在NATO事務総長を務めるマルク・ルッテ元オランダ首相が先日うっかり真実を漏らしたことで、欧州全土が息を呑んだ。ルッテ事務総長はNATOについて、単に欧州を守る盾にとどまらず、「米国が世界各地で軍事力を行使するためのプラットフォーム」であり、「この欧州内の重要な[軍事]資産を利用すること」は「米国とイスラエルによる(対イラン)作戦を成功させるためにも不可欠である」と述べたのである。

 ルッテ氏の言うとおりだ。NATOは、欧州の敵ではない相手に対する、欧州が選んだわけでもない戦争の前線基地として、欧州の利害や価値観との対立を深めつつある米国のグローバルな野心に利用されている。この北大西洋をまたぐ同盟が対等でない結婚であることは以前からずっと欧州の指導者たちにも分かっていたが、安全保障が約束されるのだからと甘受していたのである。

 欧州の安全保障に対する米国のコミットメントが疑問視される今日、ルッテ氏は、米国を至上の頂点とする体制に欧州を縛りつけている同盟を支持し続けるせいで、四面楚歌の立場に置かれつつある。米国との連携を重視する欧州内の論者のあいだでさえ、ドナルド・トランプ大統領が退任すればNATOは自動的に当初のあり方に戻るだろうという信念は(非常にゆっくりとではあるが)薄れつつある。

 いつまでも米国の気まぐれに唯々諾々と従うのでは、欧州の防衛戦略は成り立たない。その一方で、最も保守的な欧州人でさえ、米国を欠いたNATOは乗り手のいない自転車のようなものだと認めている。だからこそ、「欧州防衛連合」を求める声が高まりつつあるのだ。おそらくそれは、欧州連合の協力プロセスを強化しつつ、それをベースに、ノルウェーや英国まで包摂するような有志連合になる可能性が高い。

 だが、まさにそこに問題がある。NATOが存続する限り、欧州にとって別の有効な選択肢は実現不可能なのだ。

「欧州防衛連合」をまともに機能させるためには、四つの難問に対する明快な回答が必要になる。すなわち、欧州軍の兵器は誰が発注するのか。その調達に必要な共通債は誰が発行するのか。結果として生じる防衛支出は、各加盟国の主要な国防企業のあいだでどのように分配されるのか。そして最後になったがもちろん無視できないのは、欧州の将兵に殺し殺されることを命じるのは誰なのか、という問題だ。

 政府間の協議ではこうした問いに対する適切な答えは得られないだろうし、NATOが答えを出してくれるわけでもない。「欧州防衛連合」の大前提となるのは、通貨同盟の立案者たちが避けてきたような政治同盟なのだ。

 特にロシアによるウクライナ侵攻の後、欧州の存亡に関わる最近の脅威を受けて、ユーロ危機やその後のコロナ禍では得られなかった政治同盟への追い風が生じるのではないか、という声もある。その正否はさておき、一つだけ確かなのは、防衛同盟を機能させるには政治同盟が不可欠であり、NATOの存続がその障害になる、ということだ。