イーロン・マスク「1.25兆ドルの蜃気楼」、桁外れの企業価値が映す現代資本主義の欠陥イーロン・マスク帝国の巨額企業価値を可能にする「動機付けられた非合理性」とは?  Photo: AP/AFLO

株価は現実を語っているのか。それとも、誰かにとって望ましい姿を映しているだけなのか。『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の著者、バルファキス元ギリシャ財務相が、スペースXとxAIの統合を題材に、企業価値評価を巡る現代資本主義の欠陥について掘り下げます。

 スペースXとxAIの合併は、いつもの関係者たちから歓喜の声をもって迎えられた金融スペクタクルであり、目の保養となるものだ。しかし、より正確には、25年ほど前、ウォール街が企業合併に関する「闇の技術」を完成させ、まやかしの企業価値を成層圏まで押し上げ、やがて地上にたたき落としたその一部始終を目撃した人々にとっては、目を覆いたくなるものだ。イーロン・マスクが利益を得る一方で、私たちは現代資本主義の恒久的欠陥、つまり自らの幻想を喜んで買い続ける市場を見つめることしかできない。

 大規模な詐術は、疑似科学の外套(がいとう)をまとって姿を現す。すなわち、株価こそが企業の潜在的価値を最もよく示す指標であり、将来の富や健全性、収益性を合理的に予測する、という無邪気な信仰である。スペースXとxAIの1.25兆ドル(1ドル=158円~160円で、197兆円〜200兆円)という合算評価額の背後にある創造的な計算が疑問視されなかった理由は、二語で説明できる。「動機付けられた非合理性」である。

 動機について疑いの余地はない。そこに同調する多数の金融業者が膨大な利益を得るからだ。評価の非合理性についても、かつてAOLとタイム・ワーナー、ダイムラーとクライスラーの合併を推進した詐術的な計算との類似を見れば明らかになる。

 だが、まず強調すべきは、より広い論点だ。株価はしばしば仕組まれている。だからこそ平均的に見ても収益性の予測指標としてはお粗末であり、同時に、上方への富の移転を正当化しつつ、システム的腐敗を「市場の奇跡」として偽装する主要な装置となってきたのだ。スペースXとxAIの合併はこの哀れな物語の大半を如実に物語っている。残りを語るのが自社株買いである。