2026年9月に中国で開催された「PTエキスポ」。AIとロボット工学の結合で生産性は高まるが、そこで生まれる「果実」は誰が手にするか。Kevin Frayer/gettyimages
イノベーションはこれまで創造的破壊をもたらしてきた。しかしAIは違うだろう。それが何を破壊し、何を創造するかを考えてみると良い。世界的ベストセラー『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』や『テクノ封建制』の著者、バルファキス元ギリシャ財務相は、AIが生産性を向上させると同時に、資本主義市場の領域を縮小させていく構造を指摘する。
人工知能(AI)ブームは「バブル」か否か。聞くところでは、それはAI技術への巨額の投資が生産性を大幅に向上させるかどうか次第だ、という。たとえ現在のブームにいくぶんか水を差すような調整局面が必要だとしても将来的な生産性へのメリットは莫大である、と信じる楽観論もあれば、ゴールドマン・サックスのジム・コヴェロやマサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグルのような悲観論もある。だが、楽観主義者も悲観主義者も、筆者に言わせれば「AI生産性の幻想」に囚われている点に変わりはない。
どちらの側も見落としているのは、AIが私たちの想像を超えて生産性を向上させるとしても、AIは資本主義を壊滅させるだろうという点だ。AIが触れ込みどおりに、経済全体にわたる企業の日常的なワークフローを自動化してくれるかどうかとは関係ない。私たちがついこの点を見落としてしまうのは、過去の世界のレンズを通して今日の世界を見てしまうからだ。そうした見方は、特にAIで強化されたクラウド資本によって時代遅れになってしまったのである。
最近まで、あらゆる技術革命が「創造的破壊」の様相を呈するというのは当たり前の結論だった。新たなセクター、新たな職種、新たなスキルセットを生み出すイノベーションによって、壊滅状態に陥るセクターや職種、スキルセットがある。自動車の発明によって馬具製造業や蹄鉄工、廃馬解体業は消滅し、自動車製造や道路建設に携わる労働者、自動車整備士、ガソリンスタンド従業員が出現した。石炭から石油への移行に伴い、炭鉱業はその労働組合とともに忘却の淵に沈むことを余儀なくされた。とはいえ、差し引きで考えれば、破壊される以上のものが生み出された。創造的破壊イコール経済成長となったのである。
AIという抗しがたい力に直面する今、このテクノロジーによる正味の影響に注目し、「AIは破壊する以上の何かを生み出すのか」と考えるのは当然だ。しかし本当に問うべきは、AIが「(破壊する以上の)何を」生み出すのか、である。「AI生産性の幻想」を避けるには、私たちが生産性をどう定義しているのかを再考してみる必要がある。
生産性が、人間の単位労働によって達成される業務量を意味するならば、AIが非常に大きな成功をもたらすことは疑いない。いや、それはすでに実現している。けれども、私たちが引き続き、単位労働によって生み出される金銭的価値を基準に生産性を測定するならば、AIは救いようのない破滅をもたらす可能性が高い。
蒸気機関から自動車、パーソナルコンピューター、スマートフォンに至るまで、過去の技術革命は資本主義市場の領域を拡大してきた。技術革命のあとには絶滅した職種やコミュニティがその残骸を晒しているとはいえ、物質的な生産量が増大すると同時に、その生産量の金銭的価値も全体として増大する結果となった。
AIの場合も同じだろうか。中国では、そうかもしれない。中国ではAIがロボット工学と結びついており、物質的な生産は増大し、少なくとも短期的には正味の収益も上昇する。だが西側諸国では、アマゾン・ドットコムから企業のバックオフィス業務、法律事務所、病院などに至るまで、サービス部門にAIエージェントが進出している。こうした領域では、AIを援用したクラウド資本が二つの明確な形で市場を縮小させていく可能性がある。
第一に、これは誰もが懸念している点だが、AIはいくつかの職種を完全に破壊してしまう。パラリーガル(法律事務職員)、プログラマー、翻訳者、会計士、さらには建築士、数学者、教師も危うい。一方で、AIに与えるプロンプトの作成や出力結果の検証、AI機器を扱うエンジニアやオペレーターなど、新たに生まれる仕事ははるかに少ない。
第二の点は、もっとずっと分かりにくいが、恐らくもっと深刻だろう。それは、いくつもの市場が「クラウド領地」に取り込まれ、利益は「地代」と化してしまうことだ。
アマゾンは見たところ一つの市場であって、無数の買い手や売り手がデジタルの「壁」の中に集まっているかのようだ。しかし、筆者が以前から指摘しているように、そこには市場の核心となる特徴の「分散化」が欠けている。実のところ、それはソ連の計画経済でさえありえなかったほど集権化されている。
謎に満ちたアルゴリズムがどの買い手をどの売り手に結びつけるべきか判断するが、その基盤となる確率モデルは、顧客がそれぞれ納得できる上限の金額を払う可能性を最大化するよう最適化されている。そして、アマゾンのオーナーであるジェフ・ベゾスが、その金額の40%を懐に収めるわけだ。
ベゾスのアルゴリズムにAIがより深く組み込まれていくと、「Alexa」のようなインターフェースは、単なる購入支援アシスタントではなく、すべてを知っている友人や伴侶、あるいはセラピストのように私たちと会話するようになる。
やがて、資本家である売り手の利益は、クラウド地代という形で少数のテック領主(クラウド領主)の口座に吸い込まれるようになる。テック領主がその収入を、より多くのクラウド地代を搾取すべくパワーを増した、AIの関与をいっそう高めたクラウド資本に投資するのはほぼ確実だ。







