今すぐおっとり刀で現場に急行する以外、選択肢はない。だが、踏ん切りをつけるまでに、命を奪いに行くと決断するまでに、薄暗い部屋の布団の中で、3分くらいあれこれと考えた。そして、やっと踏ん切りがついた。
布団を跳ね上げ、パジャマを脱ぎ捨て、返り血がついても良い狩猟用ズボンに穿き替える。ナイフをベルトに通して腰に巻き付け、洗濯バサミに挟んで干されたグローブをもぎ取ってポケットに捩じ込む。免許証も持った。車に乗り込み、すっ飛ばすように山道を下る。
放獣する道はないのか、などと、そもそもなことを考えるが、駆除依頼を受けた個体を放獣することは法が許さない。「法かぁ」。法とか、道理とか、社会とか、命とか、考えることは答えが容易に出ないものばかりだ。
箱罠の中のハクビシンは暴れてついたピンク色の裂傷が額と背中にあり、小柄なその体には似つかわしくないほどに、ゼェハァゼェハァと大きな呼吸音を立てていた。
人家の庭先で止める(殺す)訳にいかないので、箱罠ごと車に積み、師匠の家に向かう。私が師と仰ぐ服部文祥氏はここ数日近所の山に滞在なさっており、冷蔵庫も冷凍庫もないため新鮮な肉が手に入ったら喜ばれるかも知れない。
命を奪う瞬間
目を背けられない
服部さんのところに到着し、2人がかりでハクビシンを窒息させようと試みる。なるべく楽に殺してあげたいと思っても、窒息を遂行する為に動かす腕の筋力は無慈悲そのものであり、抗いようのないハクビシンにとっては絶望に違いない。
意識を失う一瞬前、苦悶の表情を浮かべる様子を見下ろしていた私の横で、服部さんがひと言「見ちゃいらんねぇな」と呟いた。「はい」と返事をしたが、2人ともそのまま、目を背けることが出来ないでいた。
ハクビシンの足の肉をぶら下げて家に着くと、時刻は9時。今頃はスーツを着た多くのサラリーマンが品川駅を闊歩している。返り血のついた服を洗濯機に突っ込んでシャワーを浴び、動物病院に向かう。疥癬の薬を受け取りに行く為だ。







