“精鋭”を揃えたチームが必ずしも強くなるとは限らない。むしろ、そういうチームが自壊していくケースが多いのではないか……。多くの人がそのような印象をもっているのではないでしょうか? なぜ、そうなりがちなのか? うまくいくチームは何が違うのか? 1万人の現場リーダーを支援してきたエグゼプティブコーチである櫻本真理さんに解説していただきました(この記事は、『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』(ダイヤモンド社)から抜粋・編集したものです)。

“精鋭揃い”のチームが自壊する合理的な理由とは?Photo: Adobe Stock 写真はイメージです

チームの心理的リソースは、
個人のリソースの総和ではない

 私たちは日々、心理的リソースを消費しながら仕事をしています。

 心理的リソースとは、「思考」「判断」「衝動制御」など、精神的に負荷のかかる“面倒なこと”を処理するために必要な「心のエネルギー」のことです。この「心のエネルギー」が満たされていれば仕事で成果を出しやすいし、消耗してしまえば仕事は停滞することになります。

 そして、活気があるチームには、リソースが充満しています。そこには「チームの心理的リソース」と呼ぶべきエネルギーが存在しているのです。噛み砕いていうならば、「メンバーが協力することで困難なことや面倒なことを乗り越え、チームの目標を達成するために注がれるエネルギー」ということになります。

 重要なのは、この「チームの心理的リソース」が、単純に個人のリソースを足し合わせたものではないということです。

 なぜなら、チームワークが機能し始めると、心理的リソースは「1+1=2」にとどまらず「1+1=3」にも「1+1=4」にも膨れ上がる一方、チームワークが損なわれると、「1+1=0・5」にも「1+1=0・1」にも目減りしてしまうことがあるからです。

 なぜ、このような現象が起きるのでしょうか。
 それは、「チームの目標」と「関係性」という2つの要因によって、個人のエネルギーが増幅されたり、逆に相殺されたりするからです。

わずか4人の若者が
「奇跡」を起こした理由

 事例を通じて見ていきましょう。
 1982年に任天堂でファミコンを開発して大ヒットさせた上村雅之さんのチームは、少ない人数で大きな成果を生み出したことで有名です。

 当時の山内溥社長が、開発二部のリーダーだった上村さんに、「家庭用のテレビゲームをつくれ」、しかも「1万円以下で」という、当時の技術水準ではほとんど不可能な命令をしたことで、このプロジェクトはスタートしました。

 この難題を与えられた上村さんは、わずか4人で開発に着手。開発メンバーは、特別な能力があるわけでもなく、経験にも乏しい「普通」の若手社員であり、資金や設備などのリソースも限られていました。それだけに、社内でこのプロジェクトに期待する人はほとんどいなかったようです。

 ところが、その後、この小さなチームは「奇跡」を起こします。
 さまざまな技術的・コスト的な壁にもぶつかりながら、3年をかけてファミコンを完成させ、誰もが知る大成功へと導いたのです。

 その起点となったのは、リーダーである上村さんが掲げた「目標」でした。
 上村さんは、当時、ゲームセンターで大人気となっていた「ドンキーコング」のおもしろさ、クオリティを、家庭用ゲーム機で実現することを、このプロジェクトの「目標」に設定したのです。

 そして、このプロジェクトが成功に至った理由として、リーダーの上村さんは「チームの開発スタッフが、自宅で好きなだけ『ドンキーコング』を遊びたい! という共通のモチベーションをもっていた」ことに触れています。しかも、上村さん自身が、「そんなゲームで遊びたい」という願いを強くもっていました。

 つまり、チームの「目標」と、メンバー一人ひとりの「願い」が強く結びついていたということであり、それがこの「奇跡」を生み出す大きな原動力となったということなのでしょう。

メンバーの「願い」とチームの「目標」が一致していた

 もちろん、この成功を生み出した要因はそれだけではありません。
 環境要因、開発スタッフのスキル向上、取引先の努力、会社が積み重ねていたナレッジを含め、さまざまな要因が影響していました。

 しかし、難易度の高い目標に対して、圧倒的に小さいリソースしかなかったこの小さなチームが、通常では考えられないほどのエネルギーを発揮した背景には、個々のメンバーの「願い」と、チームの「目標」が一致していたことがあったのは間違いないでしょう。

 それは、みなさんも容易に想像ができるのではないでしょうか。
 自分の「心からの願い」を実現するためには、普段以上に努力することができます。しかも、チームに集まっているメンバーは、全員が同じ「願い」をもっているのですから、そこには「共感」が生まれ、その「共感」をベースに、自然と「協力関係」が築かれます。そして、「みんなで頑張ろう」というエネルギーが増幅していくのです。

 もちろん、意見が対立することもあり、チーム内には何度も葛藤が生じたそうです。しかし、「『ドンキーコング』のおもしろさ、クオリティを、家庭用ゲーム機で実現すること」という目標に求心力があったために、そうした葛藤を乗り越えていくことができたのです。

 こうして、上村さんのチームは「1+1」のエネルギーを、「4」にも「5」にも膨れ上がらせることに成功し、世界的な大ヒット商品を生み出しました。

 この任天堂のエピソードのみならず、「不可能を可能にしたチーム」の共通点を探ると、「チームの目標」と「個人の願い」が有機的につながり、文字通り「チームの願いがひとつになる」ことによって、「1+1」のエネルギーを大きく増幅させていることを観察することができるのです。

エネルギーを殺し合うチーム

 一方で、一人ひとりの心理的リソースは豊かでも、それを殺し合ってしまうチームもあります。

 私の友人が勤めていたコンサルティング会社は、一人ひとりのメンバーは知力も体力も気力もある「精鋭ぞろい」の強いチームでした。メンバーの心理的リソースも充実しており、連日夜中まで仕事が続くこともいとわない、ハードワーカーが集まっていました。

 会社の目標も明確でした。
 当時は、業界内で「中堅」という位置付けでしたが、それを脱皮して「業界トップ10に入る」という目標を掲げていたのです。そのためにも、「企業ブランドの確立」「コンプライアンスの遵守」が、同社の重要課題とされていました。

 ところが、社内の雰囲気はかなりギスギスしていました。
 成果主義の色合いが強く、個人の貢献がランキングで示されて、それがダイレクトに処遇へ反映される評価制度だったからです。経営陣も、「今期はあいつが一番か! お前はどうした?」などと、競争心を煽るような発言を繰り返していました。

 その結果、自分以外のメンバーが大きな成果をあげることに対する嫉妬や不安が生まれ、メンバーが裏でお互いを貶し合うような場面も散見されるようになっていたのです。

真面目な社員が、
会社に「不信感」を覚える瞬間

 そんななか、大きな問題が発覚しました。