先日、数年ぶりにビール会社の関係者たちと一緒に食事する機会があった。3年前に、突然、痛風に襲われて以来、プリン体が多いビールを飲んではいけないとドクターストップがかけられたので、私は飲み物に冷たいウーロン茶を選んだ。ビール会社傘下のレストランでの会食なのに、ビールを飲まないことは申し訳ないと思った。できるだけ話題の面でビール関連の話をしようと努めた。

サッポロビールの撤退

 雑談のなかで、話題がサッポロビールの中国市場撤退に触れた。非常に惜しい思いがした。惜しいというのは、もうひとつのことが、私は秘かに気にかかっていたからだ。サッポロの中国語ネーミングだ。サッポロは中国語では「札幌」ではなく、「三宝楽」となっている。たしかに発音を聞く限り、「サッポロ」に聞こえる。「札幌」だと、中国語ではzhahuangと発音してしまう。日本人には、いったいどこの会社のことを言っているのかがわからなくなってしまう。「三宝楽」というネーミングもなかなか工夫している。

 2008年出版された拙著『中国ビジネスはネーミングで決まる』(平凡社新書)のなかで、私は下記のようにこのネーミングを取り上げたことがある。

「サッポロビールは『三宝楽』と訳されている。……多くを意味する『三』と中国人が大好きな『宝』という漢字を組み合わせて、なんとなく宝物がたくさんあって楽しいというイメージを作ろうとしている。しかも、中国語の発音もサッポロに近い。……その努力と工夫は評価できる。もちろん、これがベストかと聞かれると、まだ検討の余地があると思う」

 いまでもそれは悪くないネーミングだと思う。しかし、この中国語ネーミングの開発を私にやらせてもらうなら、私は絶対、「三宝楽」を使わずに、「札幌」にする。たしかに発音の面では、「サッポロ」に聞こえなくなるデメリットがあるのが残念だが、逆に北海道という清々しいイメージを背負い、サッポロビールの社名に込められた精神とイメージも強調できると思う。