また、妹などの登場人物について、インタビュー形式での語りが時折、挿入される。これは主人公がテレビ番組への出演を申し込み、テレビクルーが撮影に来ていたから(現実にも和さん夫婦はバラエティ番組への出演で知られるようになった)なのだが、この演出が一種の生々しさを作品にもたらしている。

 光と影、陰影をうまく使い分ける映像美と、ドキュメンタリーのような会話劇、語りは、既存の商業映画とは一線を画していて興味深い。

 和が同年代のがん患者と語り合う当事者会のシーンでは、実際のがん患者がエキストラ出演しているという。この場面では、患者たちが友人からの励ましの声を素直に受け取れなかったり、「じゃあこの体と変わってよ」と思ってしまったりする、というリアルな感情が語られている。

 闘病や「余命○年」は決して美談ではないことが、こういった場面や、繰り返される和の嘔吐シーンで感じられる。

森田望智、小林聡美が体現
「余命もの」を超える奥行き

 また、和が当事者会で出会うがん患者・ひかりを、森田望智が演じている。森田は映画『ナイトフラワー』(2025年)で、2026年の日本アカデミー最優秀助演女優賞と新人俳優賞を受賞。NHK朝ドラ『虎に翼』(2024年度前期)への出演でも話題となり、2027年度前期の『巡るスワン』で主演を務める予定だ。

 演技派として知られるが、本作についても「存在感がすごい」というレビューが相次いでいる。脚本のセリフを独自の解釈で演技に乗せているように見え、少し変わっているけれど芯のあるひかりという人物を作品の中で際立たせている。

 和の母親を演じるのはベテランの小林聡美で、こちらも説得力のある演技を見せている。

『ママせか』は、物語の筋立てだけを見れば、決して目新しい作品ではない。若くして病に倒れた女性が、家族や恋人に支えられながら懸命に生きる。観客の涙を誘う要素も十分に備えている。   

 しかし、その描き方は必ずしも単純な美談ではない。病を抱えた人の葛藤や割り切れない感情、家族との何気ないやりとりも描き、ドキュメンタリーのような生々しさを作品にもたらしている。演出に俳優たちの演技が重なり、見慣れた物語に独特の奥行きが生まれている。 

  そもそも、わかりやすいストーリーであることと、映画としての表現が豊かであることは、決して相反しない。『ママせか』は、そんな当たり前のことを改めて気づかせてくれる作品でもある。