「国の借金」が、ついに1000兆円を超えた。財政再建はいよいよ待ったなし。一方で、消費税率引き上げの行方が、にわかに不透明感を増している。

「日銀は、消費税率が法律通りに引き上げられることを前提としている」。安倍政権と二人三脚とみられた黒田東彦・日本銀行総裁が珍しく政府に突きつけた注文だ。

 言うまでもなく2014年4月に8%、15年10月に10%への消費税率引き上げは、12年に民主・自民・公明3党の合意で決定し、国会で可決されたものだ。引き上げの時期や幅を変えるには、法改正が必要である。黒田総裁だけでなく、自民・公明の首脳陣からも、予定通りの引き上げを促す発言が相次いでいる。

6月末現在の「国債及び借入金並びに政府保証債務」は1009兆円。麻生太郎副総理兼財務相(左)は、増税先送りを牽制する側とみられている
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 その理由は、安倍晋三首相が、ここにきて引き上げ実施に対し、慎重姿勢を強めているからだ。あくまで9月9日に発表される4~6月期GDPの改定値(2次速報値)を見て判断を下すとし、引き上げの見送りや、年に1%ずつの引き上げに変更する案も検討の俎上に載せられている。

 安倍首相の慎重姿勢は政治的なポーズにすぎず、最終的には予定通りの引き上げが決定される、との見方も多い。だが安倍首相のブレーンである浜田宏一・内閣官房参与、本田悦郎・内閣官房参与を筆頭に、一部に見直しを強く主張する意見があり、予断を許さない。

 見直しの論拠は、予定通り消費税を引き上げれば、景気が腰折れし、かえって財政再建が遠のく、というものだ。

 8月12日に発表された4~6月期GDPの1次速報値では、経済成長率は実質2.6%、名目2.9%(いずれも年率)。市場予測の実質3.6%を下回ったものの、良好な数字といってよい。少なくとも、消費税増税関連法に盛り込まれた、“経済の急変時には増税を見合わせる”という「景気条項」に抵触する結果ではない。