**売上は、自分たちがやってきたことの結果

「君は、総本店の朝礼の時に、何かいい発言をしたんだってね」

 その情報もこの人には入っているよな、と思いながら高山は、
「自分の感じている問題点について話をしました」と答えた。

「それを言うことで、誰かの機嫌を損ねるとかは、特に考えなかったのか?」

「小売って、お客様に喜んでもらうことが全てに優先すると思います」

「ふむ。それは、どういうことかな」

 伊奈木が尋ねた。

「売上って、自分たちがやってきたことの結果だと思うんです。経営している側から見ると、そんな単純な話じゃないっていうことになるのでしょうけど」

「それで?」

 伊奈木は、高山の話をうながした。

「お客様がいい買い物をしたって嬉しそうに帰られて、販売した側も、いい買い物をしてもらってよかったって、そんなふうに双方が思って、そしてそういう接客が増えていけば、お客様は自然に増えていきます。他の店が、同じようなことをしているのであれば、それよりももっと価値のある商品で、もっとお客様にとって価値のある接客をすればいいのだと思います」

「で、それに当たって、今のインセンティブ制度が気になったのか」

 やっぱり、この人はインセンティブの話のことまで知っているんだと、高山は思った。

「お客様の取り合いや、売りつけるような接客の仕方になってしまう給与制度はおかしいと思います。そうでなくても、競合状況が激しくなってきているのですから。いくらその時の売上高が上がっても、お客様が次回、この店に来たいと思わなくなる可能性のある給与制度はまずいと思います」

 相澤は、一人PCに向かってキーボードを叩いているものの、伊奈木と高山との話に意識が向いているようだった。

「一人ひとりのお客様に喜んで帰ってもらうっていう当たり前のことよりも、お客様を取り合ったり、たくさん売りつけて客単価だけを競うような環境を、なんでわざわざつくらなければならないのでしょうか。長い目で見れば、かえってお客様の数は減るはずです」

「そうか、なるほどなぁ」

 伊奈木は、高山の顔をまじまじと見ながら言った。