**経営企画がどういうものか自分で考えてごらん

「社長が、言っていた通りだな、君は」

 高山は、伊奈木に社長と言われてもピンとこなかったため、何も反応しなかった。

「あの、『お前は地雷を踏んだ』って、同期の社員に言われました」

 それを聞いて伊奈木は、「そうか、地雷かあ」と大きな声で笑った。

「で、君はどうしたい?」

「ここの部署って、経営企画っていう名前なので、社長の手伝いとかをするんだろうと思っていますが、できれば、インセンティブ制度を直すようなことも誰かがしなければいけないって、思っています」

「なるほど、そうだよなあ」と伊奈木は言った。

「えっと、君な」

 伊奈木は、机上の名刺整理用のローロデックスを回した。

「この人に会いに行ってきたらいい」

 伊奈木は、高山に名刺を1枚外して差し出した。

「安部野……、京介さん、ですか」

「私とは付き合いの長い人だ。経営コンサルタントなのだが、普通のコンサルタントの人とはだいぶ違う。君にとっていい話を聞けると思う」

「僕、コンサルタントの方と話をしたことはないんですが」

「君の年ではそれが普通だ。多分、それでも話をしてくれると思うよ」

「何の話を聞いてくればいいんですか」

 伊奈木は、ふん、と鼻をならした。

「今、君が一番知りたいことは何だ」

「これから僕が何をしたらいいか、何をすべきかを知りたいです」

「行って話を聞いて、自分で経営企画ってどういうものかを考えてごらん。そしてそれを報告してくれ」

 伊奈木は、「そんなに簡単な話じゃないはずだがな」と付け加えた。

「わかりました」

「あ、それからな」

 席に戻ろうとした高山を、伊奈木は呼びとめた。

「この安部野氏は、この手のプロフェッショナルとしても超ド級だし、ユニークなコンサルタントなのだがね。彼と企業改革を行った人が、ある日、彼に別の呼び名をつけたんだ」

 伊奈木は、何かをおもしろがっているような顔で言った。

「『企業の憑き物落とし』だそうだ」

(つづく)

※本連載の内容は、すべてフィクションです。
※本連載は(月)~(金)に掲載いたします。


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