大手紳士服チェーン「しきがわ」の販売スタッフ高山 昇は、経営幹部の逆鱗に触れ、新設の経営企画室に異動させられてしまう。しかし高山は、持ち前の正義感と行動力を武器に、室長の伊奈木やコンサルタントの安部野の助力を得ながら、業績低迷が長引く会社の突破口を探すべく奮闘。若き経営参謀として一歩ずつ成長する――。企業改革に伴う抵抗や落とし穴などの生々しい実態をリアルに描く『戦略参謀』が8月30日に発売になりました。本連載では、同書の第1章を10回に分けてご紹介致します。
**高山、伊奈木に会う
翌日、高山は新設の経営企画室に初出社した。
しきがわでは、基本的に全部門が大部屋の中にあるが、この経営企画室だけは別の一室だった。相澤が一人、すでに出社しており、机の上の拭き掃除をしていた。
「おはようございます」と挨拶をしてから高山のもとに寄ってきて、笑顔で軽く頭を下げ、「昨日はご馳走さまでした」と言った。
高山は相澤に教えてもらい、彼女の机の前の自分の席に着いた。
店舗勤務だった高山にとって、自分の机を持つのははじめてだった。
高山は席に着き、相澤に聞いた。
「相澤さん、経営企画室って、なぜ、他の部署みたいに大部屋じゃないの?」
「社長の意向みたいよ。経営課題の話をする時は、あまり、皆が聞き耳を立てるような場所だと不都合がある、っていうことらしいの」
高山が、「そうなんだ」と答えたところに、室長の伊奈木が入ってきた。
「おはよう、高山君だね」
「はい。よろしくお願いします」
高山は立ち上がり、両手を脇に着けて、店舗で躾をされた通りに、腰から30度曲げる挨拶をした。
それを見て微笑んだ伊奈木も、自身の席に着いた。