『ロジカル・シンキング』(照屋華子・岡田恵子著、東洋経済新報社、2001年)の刊行以後、ビジネスの分野でその重要性が語られてきたロジカル・シンキング。意思決定をはじめ様々な場面で必要となるこの思考法は、すでにビジネス・パーソンの学ぶべきスキルとして欠かせないものになっています。今回紹介する『経済学思考の技術――論理・経済理論・データを使って考える』は、そのロジカル・シンキングを下敷きに、経済学への理解を深めさせてくれる名著です。数学はまったく使わずに、ビジネスでの実践力が身につく本書はまた、刊行時の10年前に日本経済の現在の課題といま進むべき道を導き出していました――。

ロジカル・シンキングに裏付けされた
「経済学思考」10の基本ルール

飯田泰之著『経済学思考の技術――論理・経済理論・データを使って考える』
2003年12月刊行。サブタイトルにもあるとおり、ロジカル・シンキングに加え、経済理論・データを駆使することで、ビジネスに活かせる思考を身につかせるというコンセプトが読者の支持を得ました。

 ちょうど10年前に刊行された本書、『経済学思考の技術――論理・経済理論・データを使って考える』は、当時28歳の飯田泰之氏が書き下ろした経済学初学者向けのユニークなテキストです。論理思考術(ロジカル・シンキング)のイロハから始まり、重要な経済学の法則や理論を解説しつつ、日本経済の実態を解明していくという本書は、10年経った現在でもまったく古くなっていない驚異的な教科書です。

 著者はまず、全編をつらぬく目的をこう説明します。

 本書はその名のとおり「経済学」に関する本です。しかし、大学で学ぶ経済学のコンパクト版でもなければ、資格試験攻略のための手引き書でもありません。本書は「経済学思考」のトレーニングブックなのです。
(3ページ)

 そして、本書の「最終目標」を設定します。

・「経済学思考」を身につけ
・それに基づく経済原則を知り
・自分の手で現実の経済・ビジネスを考える実践力を身につける
(3ページ)

 単純化して突き詰めること、データによって確認することを「経済学思考」の基礎としたうえで、「経済を考えるための、経済学思考の基本ルール10」を挙げます。この10のルールは本書のあちこちに出現し、読者を脱線しないようにしてくれます。

1. 論理的に語らなければならない
2. データに裏付けられた論理で語らなければならない
3. 人はインセンティブに従って行動する
4. 個人がアクセスできるフリーランチはない
5. 市場均衡は非常に良い性質を持っている
6. 価格の調整は緩慢にしか行われない
7. 経済状態は自己決定的な性質を持つ
8. グロス(総額)だけではなくネット(純額)で考える
9. 名目変数と実質変数には区別が必要
10. 正しい単純化・正しい論理構成・正しいデータ確認から導いた結論は常識に勝る
(16ページ)