起業家、経営者の中には変わり者と見られている人が多くいます。トップに立つ人間はある程度「アクが強い」ほうが成功するのかもしれません。しかし、昨今はあまり目立った派手な言動を取ると、「出る杭は打たれる」式にネガティブな反応をされる社会でもあります。
異端の人が経営者になるのは何も最近のことではありません。社会が劇的に変化した明治・大正期には現在よりもさらにエッジの効いた、「破天荒な実業家」たちがいました。今回紹介する『経営者の精神史』はそんな人々の生き方に迫る一冊です。
2004年3月刊行。カバーのイラストは、「週刊ダイヤモンド」連載時の装画をまとめたもの。「三鷹のご自宅で奥様の手料理をいただきながらお話をうかがってことは今でもよく覚えています。知の巨人の凄みに触れられたのは編集者人生の中でも特に印象的な経験でした」(担当編集者)[画像を拡大する]
テロリスト、作家、芸人、蒐集家……
24人のユニークな経営者
世界的に知られる文化人類学者の山口昌男さんが2013年3月10日に亡くなりました。81歳でした。2004年に出版された『経営者の精神史 近代日本を築いた破天荒な実業家たち』は、山口さんが直接執筆した恐らく最後の著作だろうと思います(編集された書籍はその後も多数出版されています)。
本書は、近代日本資本主義を作り上げた明治初期の経営者の精神史をたどりつつ、現代思想を経営者の生き方から考察したユニークな作品です。中心を成す原稿は、「週刊ダイヤモンド」2002年7月27日号から03年10月4日号まで連載したものでした。
序章に当たる「はじめに」で山口昌男さんはこう書いています。
現代思想と銘打ったような雑誌や刊行物に経営者が登場することはほとんどない。いわゆる現代思想のエネルギーの大半は相変わらず、欧米の書物をいかに要領よく引き写すかに費やされている。
ところが、日本近代の魅惑的な部分がどのようにかたちを整えてきたかという問題を抱えた途端に事情は逆転する。欧米との対比においても、興味深さにおいても、いわゆる学問・思想はぐっと後退して、企業者の生きざまのほうが、前面に出てくる。
というのは、どちらかといえば猿真似に終始してきた学問・思想とは異なり、企業者の行為は近代日本の文化、歴史と密接な関係において展開してきたからである。それゆえ今日、近代日本が世界の趨勢のなかで開拓してきたオリジナリティーに富み、ユニークでいろいろな分野にかかわりを持つ行為の総体としての『精神史』は、企業者(経営者)の歩みのなかに見出されるといっても過言ではない。(1〜2ページ)
こうして全部で24人の経営者を取り上げ、彼らの来歴と知のネットワークを解明していきます。大半の経営者は幕末に青春期を送っており、旧幕臣としてテロ活動を行なっていた経営者、とてつもない美術品コレクターの経営者、舞台の脚本を書き、作詞家でもあった経営者など、びっくり仰天する姿が描かれています。だれでも知っている有名経営者はあまり登場しません。ぜひ本書をひも解いてください。