ドラマ「半沢直樹」。ご存じのように最終回の視聴率は42.2%。初回19.4%からスタートし、途中で参院選や世界陸上のために二度も中断したにもかかわらず(通常、連続ドラマは中断すると視聴率は大きく下がる)、一度も数字を下げることなく、ドラマとしては今世紀最高の視聴率を獲得した。平均視聴率も29.1%である(いずれもビデオ・リサーチ調べ。関東地区)。

 全体的にテレビの視聴率が下がっているいまの時代に、この数字はまさに偉業だが、これだけのメガヒットの背景には、当然ながらドラマに共感できる社会の価値観というものがある。

「半沢直樹」大ヒットの理由については、メディアでもネットでも、数多くの人が分析し、論考している。しかし、「女性の価値観の変化」という視点、そして「社会貢献」の視点から語っているものは見当たらない。というわけで、今回はこの2つの視点から、「半沢直樹」のヒットの秘密に迫ってみたい。

「勧善懲悪のドラマだったから
大ヒットした」は本当か?

 まず、「女性の価値観の変化」と「半沢直樹」である。男性だけでなく、女性も見なければこれだけの数字は取れない。実際、僕の周辺でも女子大生から大人女子まで、幅広い年代の女性がこのドラマにはまっていた。しかし、ご存じのように「半沢直樹」は非常に“男臭い”ドラマだ。舞台は金融業界。登場人物はほとんどが男、というかオヤジ。したがって絵面もオヤジ臭がプンプンする。恋愛に関するサブストーリーもいっさいなし。女性人気の高いアイドル的スターも出演していない。こんなドラマの「何に」女性は共感したのだろうか。

「半沢直樹」大ヒットの理由としてよく言われていることは、ドラマとしての完成度だ。テンポの良さ、わかりやすいストーリー展開、役者の演技力、日本人好みの勧善懲悪。つまり、日本人好みの勧善懲悪ドラマをキッチリ作ったのがヒットの要因だという論考が多い。たしかにそれは間違っていない。しかし、良い品を作っただけで商品が売れるほど、商売というものは甘くはない。クオリティの高さは重要な要素だが、ドラマや映画がヒットする最大の要因とは――「価値観」である。共感できない物語を人は続けては見ない。では、女性のどのような価値観がこのドラマに共感したのか。

 多くの人が語るように、勧善懲悪という価値観に共感したのは確かだろう。しかし、いつの時代も日本の女性が勧善懲悪の物語を求めていたわけではない。トレンディドラマ全盛の頃は、世の中は恋愛至上主義の時代で、恋愛に対する日本人の価値観が非常に高かった。だから、オシャレな恋愛を描いたトレンディドラマが軒並みヒットした。一方、典型的な勧善懲悪ドラマである「水戸黄門」など、シニア(恋愛という価値観から遠い人たち)以外は誰も見ていなかった。

 つまり、「半沢直樹」は勧善懲悪のドラマだったからヒットしたのではなく、世の中の価値観が勧善懲悪に向いていたからヒットしたのである。そのあたりを間違えると本質を見誤るが、この点に関しては後述する。