「いつまで営業できるか、見通しが立ちませんよ。経営環境がどうにも厳しくなってしまって・・・・・・」

 JR中央線の阿佐ヶ谷駅からほど近い、ある老舗バーのオーナーは寂しそうに笑う。

 サラリーマンや学生の団体で騒々しい居酒屋とは違い、仄暗い灯りの下、静かなカウンターでウイスキー、カクテル、ワイン、焼酎などをじっくり楽しめるバー業態の酒場は、コアな人気がある。長らく過当競争が続く外食市場においても、これまで一定のシェアを保ち続けて来た。

 「お客の8割方が仕事帰りのサラリーマンやOL。1人でゆっくり飲みたい人や、バーテンダーに仕事や家庭の悩みを聞いてもらいたくて来る人が多い。“隠れ家”的な心地よさがあるんでしょうね」(オーナー)。

 そんな「サラリーマンの憩いの店」とも言えるバーが、「ここに来てかつてない苦境に直面している」と、オーナーは肩を落とす。

 原因はこの大不況だ。「背伸びをせずに常連客の口コミで成り立っている」という個人経営店が多いバーは、資金力も宣伝力も居酒屋チェーンなどと比べて、極端に弱い。過去においても、不況の影響を強く被って来た。そんな彼らにとって、大手資本の居酒屋さえ淘汰の波に飲み込まれている今回の不況は、さすがにこたえるようだ。

 「昨年末からお客が目に見えて減り始め、月間の売り上げが2割は減っています。“せいぜい2000~3000円程度”という客単価を考えても、むしろ居酒屋より安上がりなのですが・・・・。サラリーマンの小遣いが想像以上に減っているのかもしれませんね」(オーナー)

 方々で話を聞くと、こんな苦境に陥っている人気バーは、首都圏全般に広がっているようだ。

 日本フードサービス協会によれば、パブレストラン(バーを含む)や居酒屋などの全店売上高は、3月時点で対前年同月比93.8%、店舗数は同97.7%、利用客数は同93.8%と、昨年以降、毎月のように落ち込み続けているという。

 「3月決算で大赤字を出したバーが金融機関から貸し剥がしに会い、この界隈だけで30店以上潰れたと聞きます」と明かすのは、新宿・歌舞伎町の雑居ビルでワインバーを営むオーナーだ。

 「以前は舞台俳優やテレビ局の制作関係者が毎週のように朝まで飲んでくれましたが、接待費やタクシー代の削減により、今では月に1度来てくれるかどうか。売り上げは年初から3割減りました」(ワインバーのオーナー)

 苦境に拍車をかけるのは、不況による客足減ばかりではない。仕入れ値や不動産価格の高止まりといった、構造的な問題もある。

 コスト高の影響を最も被っているのは、トウモロコシや麦類を主原料とするウイスキー、とりわけバーボン・ウイスキーの専門店だ。