つくられた黒字決算──。
今回の米国のマネーセンターバンクの決算をひと言でいえばこうなる。シティグループ、バンク・オブ・アメリカ、JPモルガン・チェースの2009年1~3月期決算は揃って黒字となった。債券などトレーディング部門が、期中の価格変動を追い風に多額の利益を計上したことが最大の要因だ。
しかし、財務内容は劣化している。3月の失業率が8.5%と35年ぶりの水準を記録するなど米国景気の低迷が続くなか、不良債権の増加が止まらない。シティが前期比17.1%増の261億0110万ドル、バンカメが同41.2%増の257億4300万ドル、JPモルガンが同27.3%増の114億0100万ドルといった具合だ。
3行とも貸倒引当金は積んでいるものの、不良債権に対するカバー率を低下させた。シティが133%から121%、バンカメが141%から121%、JPモルガンが260%から241%に下がっている。200%を超えるJPモルガンはまだしも、シティとバンカメは「不良債権の増加に積み増しが追いついていない」(中川隆・大和証券SMBC金融市場調査部次長)のは明らかだ。
この両行は実質的な収益ベースで見れば赤字といってよい。
シティは純利益15億9300万ドル、税前利益23億9600万ドルと六期ぶりの黒字転換を果たしたが、その一方で、負債の簿価下げ、デリバティブの価値調整(評価下げ)によって29億ドルの利益を計上している。
「これはシティの信用力低下の結果。具体的にはCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)スプレッドの拡大によって会計上生じたもの」(石原哲夫・みずほ証券シニアクレジットアナリスト)。シティ本来の収益力にはなんら関係のない一時的要因であり、このぶんを差し引けば税前利益は赤字だ。
また、不良債権の増加を尻目に、シティはなんと貸倒引当金など信用コストの計上額を前期比で22億5600万ドル減少させている。
バンカメもシティ同様に自らの信用力低下に伴う負債の簿価下げで22億ドル、そして有価証券の売却益34億ドルと一時的な要因による利益を計上した。合計額56億ドルを税前利益53億7600万ドルから差し引けば赤字になる。
黒字決算が続いたことで株価をはじめとした市場は落ち着きを取り戻している。しかし、「4月に入って債券の価格変動は小さくなっており、4~6月期も多額の利益を計上し続けるとは想定しにくい」(藤岡宏明・大和証券SMBC金融市場調査部次長)。米国の大手銀行が不良債権に蝕まれつつある構図に変わりはない。実際、シティ、バンカメにとって資本の過不足を示すストレステストの結果は、厳しいものとなった。「今のマーケットは浮かれ過ぎ」(中空麻奈・BNPパリバ証券クレジット調査部長)なのである。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田孝洋)