将来を見据えた重要な政策が、“業界エゴ”と株価に翻弄されることになりそうだ。「金融一体課税」と「証券優遇税制」の綱引きである。
政府は、預金金利や株式譲渡益と配当、投資信託の売却損益など、さまざまな金融商品の損益を合算して課税する、いわゆる金融一体課税の実現に向けて動き出した。12月にまとめる2008年度の与党税制改正大綱にも、その第1歩として株式譲渡益と配当での損益通算が盛り込まれる見通しが強くなった。
多様な金融商品の一体課税が実現すれば、たとえば「株式投資で損したが、そのぶん預金金利を無税にする」などということが、個人で簡単にできるようになる。このような損益相殺ができれば、個人投資家のリスク許容度は大幅に高まり、長期的には証券市場の活性化につながる。
また、金融所得を総合課税から分離して、損益通算を可能にする税制改正は欧米でも急速に進んでおり、「金融資本の効率を高める税制へのシフトは世界の潮流。取り残されると、逃げ足の速い金融資本の日本からの逃避が起きかねない」(課税問題に詳しい森信茂樹・中央大学法科大学院教授)との指摘もある。
だが、本格的な金融一体課税導入の大前提は、こうした多様な金融商品の税率が等しいこと。つまり、現在10%に軽減されている株式譲渡益と配当への課税が、預金金利並みの20%に戻ることが必要だ。2003年度から株価対策で導入されたこの証券優遇税制は、本来であれば今年度末までに期限切れになるはずだった。
ところが、昨年末の税制改正議論で「そんなことをしたら低迷している株価が暴落する」と証券業界は猛反発。財界、政界を巻き込んだドタバタ劇の結果、“優遇税制廃止は1年延長”という成果を得た。このため、現在の2008年度税制改正論議は、1年遅れの優遇税制廃止が前提となって進められており、政府税制調査会も今月まとめた答申で廃止を明言している。