可視化できないテロの脅威
対策が脅威を増長する悪循環を生む

――最近では多くの民間人が政府機関で機密情報を扱う仕事に従事しています。空港の身体検査で使われるスキャナーから無人飛行機まで、防衛産業は多くの高額契約を勝ち取っています。テロに対する脅えは、結果的にアメリカ国内で数十万のアメリカ人に向けて雇用を創出する新しい産業を作り上げたようにも思えます。まるで公共事業で橋やビルを建てるのと同じようにも思えますが、この「恐怖産業」についてはどうお考えですか?

 産業界からの意向で作り出されたとは考えにくいが、テロに対する国民の脅えが結果的にアメリカ国内に新しい産業を作り出し、多くの雇用を作り出したという点には同意できる。

 最初に莫大な予算が政府の各省庁に配分され、そこから民間企業との間で様々な契約が発生する。テロ防止に貢献したプロジェクトも少なくないが、民間企業への発注には随意契約も多く、途中で計画が頓挫した話も珍しくない。政府機関は配分された予算を使い切ることを重視しているため、プロジェクトの質や意義は後回しにされてしまうのだ。

 戦争では多くの戦死者が出て、戦闘が行われた地域のインフラなどが破壊されてしまうが、アメリカ国内の対テロ政策ではそういった危険性はゼロに近い。

 戦争との大きな違いは、最終的な目的ではないだろうか。無条件降伏から停戦協定まで種類は様々だが、戦争は必ずどこかで終結させるために行われている。しかし、対テロ戦争やアメリカ国内のテロ政策はどのような条件下でいつ終わらせるかという明確なゴールがないまま続けられているため、半永久的に継続される可能性が高い。

――オハイオ州立大学のジョン・ミュラー教授によって行われた調査では、アメリカ政府が911同時多発テロ以降、テロリズム対策としてすでに1兆ドル以上を使っていたことが判明しています。連邦政府機関の閉鎖やデフォルトが大きな問題として連日取り上げられる中で、テロ対策に使われてきた1兆ドルという額についての見解を教えてください。

 1兆ドルという金額はさすがにどれくらいのものか想像できないが、開発途上国における疾病や貧困といった問題が解決できてしまいそうな額だ。こういった分野に政府予算を使うことが、長期的には反米主義やテロを防ぐ手段になりうるかもしれないが、米政府内の各機関は911テロ後に大きく増やされた予算をこれからも確保し続けなければならないとそれぞれが考えている。そのため、どのようにして予算をキープするかに心血を注いでいるようにも思える。

 アメリカに限った話ではないが、政府機関への予算は監査が入り、必要でないと判断され場合には当然予算カットが実施される。そのため本来はそれほど必要だとは思えない案件でも、それを担当する省庁はその案件がいかに重要かをアピールし、予算のキープや増額を狙っているのだ。

 どこの国にも存在する話とはいえ、アメリカの、しかも対テロリズム予算となれば、額の桁が変わってくるため、担当省庁は予算をキープするために次々と新しいプロジェクトを発表し、その成果を国民や議会に向けてアピールする。

 テロの脅威というのは可視化することのできない、非常にあいまいなものだが、国民が政府機関の活動を目にすることでさらにテロリズムに対して不安を抱くという悪循環が生まれている。