資産形成を実践するうえで重要な3つのポイントのうち、前回は「目的に合った投資をする」ことについてお話ししました。簡単におさらいすると、老後の生活資金を準備するという目的に対しては、減らさないことよりむしろ、インフレ・リスクや長生きリスクに対処するため殖やすことを目標とすべきで、また人生90年時代の日本では定年退職後も十分な投資期間があるので、「長期で殖やす」高リスク・高リターンの運用が適切と言うことです。ただ、この高リスク・高リターン運用をずっと続けるというわけではなく、年齢に合わせて資産の中身を調整する必要があります。
そこで今回は、2つ目の重要なポイントである「年齢によって投資の仕方を変える」ことについてお話しします。
自分の価値を測る
誰でも自分の価値(本コラムでは、あくまで収入を稼ぐ能力という意味での価値)を測るのは嫌なことですが、それは資産形成においては大切な第一歩で、専門用語で「人的資本」と言います。人的資本とは、あなたが将来にわたって稼ぐ収入すべての現在価値であり、働く期間が長い若いときほど、そして収入が高い人ほど大きくなります。また、サラリーマンや公務員の場合は給与収入という安定したインカム・ゲインが毎月発生するため、人的資本は低リスクの債券に近い特徴があります。
こう言うと、「昔ならいざ知らず、今のサラリーマンの収入は安定しておらず、公務員も財政再建の一環で人数や給与が減らされる」と思う人もいるでしょう。確かに、終身雇用による年功序列の給与体系が揺らぎ、リストラや実績連動により収入の変動性が高まっているのは事実ですが、日本の失業率は欧米に比べれば低く、年功序列的な要素もまだ多分に残っています。日本では基本的に収入が年によって半分になったり倍になったりするような極端な変動はなく、収入は比較的安定しているため、人的資本は「疑似債券」と言うことができるのではないでしょうか。