この理由で、まさか無罪放免となるはずもなく、最終的に裁判を受けるところまで事態は進んでしまった。そうして、約1年前に執行猶予付の判決を受けていたのだ。

「母はこんなことする人ではないのですが……」

 最初の裁判のときに、息子さんはそう話していた。息子さんにとっては、Aさんが年を取るにしたがって、判断力が失われてきたとしか思えないのだ。Aさん自身、執行猶予付の判決を受けて、心から反省しているように見えた。

 今回の窃盗は、「息子の好物を食べさせてやりたいと思った」というのが直接の理由であった。だが、Aさんはそのときに十分なお金を所持していた。

「一体どうすれば良かったのか。母を一日中見張っているわけにはいかないし……」

 結局、2回目の裁判の末、再度の執行猶予が認められず母親を刑務所に送ることになった息子さんは、力なくつぶやいた。

認知症や心神喪失でないなら
悪気がなくても罰せられる

 Aさんのようなケースでは、いわゆる認知症といえるのか、非常に判断が難しい状態である。なにより、論理的に話はできるし、物忘れなどもない。日常生活も問題なく送れている。頭はある意味しっかりしているからだ。

 その上、自分が悪いことをしているという自覚もある。ただ、窃盗を我慢することができないのだ。

 認知症というのは、年齢と共に脳の働きが劣化して、判断力や記憶力に障害が起こることをいう。それにより、対人関係や社会生活に支障をきたすことになる。

 厚生労働省の調査では、65歳以上の高齢者の4人に1人が、85歳以上の3人に1人は認知症とその予備軍だといわれている。今後、高齢化社会が進展するなかで、認知症の疑いのある人は増えていくことは確実視されている。