TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉が大詰めを迎えている。TPP反対派の一大論拠は、TPPを認めれば、日本の農業が崩壊して、食料自給率の低下を招き、食の安全が脅かされるというものだ。しかし、今の農業や農村は都会人が抱くイメージとは全く異なっている。農政や農協がこうしたイメージを活用して自らの既得権益を守ってきた結果、日本の農業は衰退の道を歩んできた。本連載では、農業の発展を阻害してきたこれらの要因を明らかにし、そのくびきから解き放たれれば、農業立国は可能なことを明らかにする。
第1回では都会人が信じている「農村伝説」の正体を明らかにし、いかに一般国民が抱いている農村・農家のイメージと現状がかけ離れているかを示す。
東京大学法学部卒業。同博士(農学)。1977年農水省入省。同省ガット室長、農村振興局次長などを経て、2008年4月より経済産業研究所上席研究員。2010年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹。主著に『日本の農業を破壊したのは誰か―農業立国に舵を切れ』(講談社)、『企業の知恵で農業革新に挑む!―農協・減反・農地法を解体して新ビジネス創造』(ダイヤモンド社)、 『農協の大罪』(宝島社新書)、『農業ビッグバンの経済学』(日本経済新聞出版社)、『環境と貿易』(日本評論社)など。
国民の多くは、農業や農村に対して、次のようなイメージや考えを持っているのではないだろうか。
「農村のほとんどの人は農家だ」
「規模の大きい農家は、化学肥料や農薬などをたくさん使う近代的な農業を行っているのに対し、貧しくて小さい農家は、肥料や農薬を買えないので、環境にやさしい農業を行っている。だから、小農は保護しなければならない。規模拡大による農業の効率化などとんでもない」
しかし、そのイメージ通りの農業・農村は、いまや日本では絶滅危惧種である。
望郷の歌がヒットしたことが
昭和30年代の際立った特徴
国民のほとんどが、農業や農村から遠く離れた都市的地域で、生活している。2005年時点で、日本の人口1億2500万人の半分(6300万人)は、関東、中京、京阪神の三大都市圏に集中している。