小さな達成感の積み重ねで生まれる
「自己肯定感」が本番で実力を発揮させる
——自信を失うことで悪循環に陥るというのは誰しも経験があることのように思います。
森川「それとは反対に、『OKライン』を下げて簡単な、実現性の高いものに設定したとします。できて当然のことであっても、そのラインをクリアすると意外なほど達成感が得られるものです。その小さな達成感の積み重ねがメンタル的にはとても大事で、自分に対する信頼、自己肯定感を持つことにつながります。プレッシャーやストレスの中でも自分の100%の実力を発揮できるメンタルの状態には、自己肯定感が不可欠なんですね。
適切な『OKライン』の設定を通じて自分自身と向き合い、自己肯定感を高め、環境や状況に左右されずに本来の力を発揮させる――というのが、私が現在行っている『OKラインメンタルトレーニング』です」
——『OKライン』を低くすることで達成感を得られることはわかりますが、最終的な目標まで遠ざかることになるような気もします。
森川「実は、『OKライン』を用いたメンタルトレーニングは自分自身の体験から生まれたものです。もともと私はサッカー選手としてヨーロッパで過ごした期間があって、そこでメンタルの重要性を痛感してメンタルトレーニングと心理学を学びました(※編集部注:森川さんの原点であるサッカー選手時代については次回ご紹介します)。
今の仕事をはじめてすぐにいただいた研修の仕事で、大勢の人の前で話をさせていただくことになったのですが、緊張でまったくうまく話せませんでした。もともと人前で話すことが苦手だったのですが、この経験ですっかり自信をなくして、その後1年もの間、大人数相手に話す仕事はすべて断りました。このとき私は、相手が満足するくらい完璧にミスなく話そうとして、自分自身にプレッシャーをかけてしまっていたんですね。今思えばかなり『OKライン』が高いところにありました」
――先日、大きな会場で森川さんがお話しされているのを拝見しました。どのように克服されたのでしょうか。
森川「1年後に引き受けた講習会の仕事では、まず自分の実力以上のことをしようとしない、と考えました。そのためには、自分が確実にできることを考え、把握しておくことが重要になります。
・手に持っている資料を何回見ても3時間話し切れればOK
・はじめの20分はぎこちなくても伝えたいことを話せればOK
・ホワイトボードの使い方が下手でも分かりやすくなっていればOK
『OKライン』をここに設定しました。講習会中、自分にOKをたくさんあげることができ、途中からは人前でしゃべることが「楽しい」と思えるほどの余裕が出たんです。このときはすでにメンタルを仕事にしていた後だったので、このメカニズムを理論化して、『OKライン』メソッドとして確立することに成功しました」