IRは「2種類」の翻訳をする特殊な任務
田中 こんなこと言ったら怒られてしまいますが、上場すると、株主がやかましいじゃないですか(笑)。アイスタイルさんも投資家からのプレッシャーがキツいと思いますが、投資家の声なき声を汲み取って、それを経営陣に伝える、ないしは現場に伝えるということをしないといけません。IRに関連する翻訳は結構苦労されるのではないかと推測するんですが、実際はどうでしょう?
菅原 IRは特殊な任務ですね。最初は本当にワケがわかりませんでした。最近は以前よりも霧が晴れてきたから、では、どうやって山を登っていこうか、という感じにようやくなりました。IRでの翻訳という意味では、投資家がわかる言語に変換して情報を発信すること、そして、投資家が言っていることを経営陣、または、自分のコーポレートスタッフにどう伝えていくのかという双方向の2種類の翻訳があると思っています。当社の属する業界はインターネット関連ですから、そのようなネット系企業をカバーするアナリストは通常であれば、セルサイド(投資銀行や証券会社など株や債券を売る側)もバイサイド(投資顧問、信託銀行、年金基金など資金を運用する側)もだいたいITセクターの方か、中小型株の方です。しかしながら、当社の場合、「化粧品」と「インターネット」の両セクターに片方ずつ足を突っ込んでいるので、そのことがIRを難しくしている要因のひとつになっています。
保田 アナリストとは良好な関係を築けていますか?
菅原 ITセクターのアナリストの方々には、当社の時価総額のレベルでありながら、気にかけていただいており感謝しています。小売セクター担当のアナリストにとっては、弊社を取材されることで、ご自身がカバーされてる化粧品メーカー様へのインタビューのフォローにもなるでしょうし(笑)、興味を持っていただく理由も様々だと思いますが、そこは逆に良い機会と捉えて、当社に対するカバレッジを強化してもらえるよう業界トレンドを俯瞰するような話をする中でも自社をアピールするようにしています。
保田 それはかなりレベルの高いIRのコミュニケーションですよ。ちなみに、アナリストとのコミュニケーションに関して、セルサイドとバイサイドでそれぞれに工夫されていることはありますか?
菅原 セルサイドに関して、ITセクターのアナリストは、ビジョナリーなタイプが多くて、IT業界のことが大好きな印象があります。足元の数字については全く質問せずに「アイスタイルはこうじゃなきゃいけないと思うんだよね」といった意見を提案して下さるアナリストもいらっしゃいます。そのような方とは、当社の戦略立案に関するブレストパートナーといった感じでお付き合いさせていただいていて、本当に感謝しています。
ファンドマネージャーやアナリストが
Excelで財務モデルを作れる情報提供を
保田 バイサイドとはどんなスタンスですか?
菅原 バイサイドに関しては、関係性がセルサイドよりやや遠い方も多く、きっちり堅めに対応させていただいています。ファンドマネジャーやアナリストが分析に使っているであろうExcelの財務モデルを素人ながら想像しつつ、バイサイドの方々がExcelのセルを埋めていけるような情報を提供するように心がけています。
我々の思い描くエクイティ・ストーリー(新株を発行して調達した資金の有効な使い途について投資家に説明する際の成長戦略)をベースにした財務モデルをExcelで作ってもらえたらいいんですが、きちんと説明しないと全然違うモデルができてしまうと思うんですね。いったんモデルを作られてしまったら、ファンドマネジャーもアナリストもモデルを作り直す作業は大変だから、やらない可能性が高いじゃないですか。だから、そういう意味で、一発目のミーティングがとても肝心だと思っています。そこは徹底的に意識し、ホワイトボードを使いながら「私たちはこういう事業モデルなんです」「次の施策は、こういう狙いなんです」という具合に説明します。もっとも、「こういう感じのモデルをExcelで作ってくださいね」というのがホンネです(笑)。
田中 それはおもしろい。誘導するんですね(笑)。
菅原 誘導というか、短時間でより正しい認識をしていただきたいという思いです、はい。
田中 先ほどおっしゃっていた霧が晴れてくる前の状態のときは、そこまできめ細かい対応はできなかったのでしょうか?
菅原 最初は五里霧中で、それどころではありませんでした(笑)。投資家の皆さんはほぼ全員が違うことを言うし、頭の良い人ばかりですし、どう対応してよいかわかりませんでした。私の場合、多くを業界の先輩方である多くの上場CFOに教えていただきました。
保田 それはいいですね。
菅原 当社は、まだ規模が小さな会社。セルサイドのアナリストによるカバレッジ(証券会社のアナリストがアナリストレポートを書く対象として担当する会社)が付いていません。ベンチャー企業の新規上場も増えていますし、アナリストによる潜在的なカバレッジ対象銘柄はすごく増えているんですよね。したがって、投資家の方々に少しでも注目していただけるよう、まだまだ努力していく必要があると痛感しています。
次回は12月12日更新予定です。
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