今月9日、トヨタ自動車はプリウスのブレーキ不具合によるリコールを国内外で約43万台発表した。

「私の対応にもカイゼンすべき点があった」(豊田章男社長)。昨秋のマットにペダルが引っかかる問題からじつに4ヵ月以上、一連の大量リコールについてようやく社長自ら謝罪の意を表明した。

 販売や業績への影響、問題が起きた背景の追究など課題は残るが、トップが第一線で指揮する姿勢が確認されたことで、トヨタは事態収束の第一段階に立てたといえる。

 しかし、世論に押されるかたちで国内でプリウスを「リコール」したことは、はたして最善の策なのか、疑問も残る。

 今回、プリウスは保安基準に抵触するわけではなく、リコールよりレベルの軽い「サービスキャンペーン」での対応も模索されたが、トヨタがリコールに踏み切ったのは、「この先20万台が10年近く使われることを考えると、事故が絶対起きないとは言い切れない」から。もちろん将来起こりうる事故を回避し、客の安全を最優先するのは大切だ。

 ただ、これが前例となり、従来の行政や業界のルールが覆される懸念がある。リコールに過剰に敏感になったり、必要以上の対応が今後、当然と見なされるわけだ。

 なによりプリウスといえば、今の市場のリーダー的存在。ハイブリッド車の高い技術と性能を誇りながら低価格で販売したことで、ガソリン車もその価格見直しを余儀なくされた。また、自動車買い替え優遇策延長の経緯には、プリウスの納車遅れを配慮した側面もある。つまり、国の景気対策、環境対策の要でもある。

 さらに、トヨタとプリウスは、海外で日本製品の品質を象徴する存在でもあり、今回のリコールで日本製品全体の品質イメージに与える影響は決して小さくない。

 やまないトヨタバッシングに対し、トップが前面に出てすべきことは、早期の的確な状況説明であり、見た目にもわかりやすい謝罪で溜飲を下げさせることではない。いまさらながら、初動の遅れが悔やまれる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)

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