5月13日、満を持して発表された日産自動車の新中期経営計画「日産GT2012」。この内容をひと目見れば、従来の中計から「大きく変わった」という印象を受けるだろう。
まず、期間が3年から5年となった。そして、なによりもカルロス・ゴーン社長による経営の神髄、コミットメント(必達目標)から販売台数や利益率などの数値目標が消えたのだ。唯一、数値目標らしきものは、2012年度までの5年間で売上高を年平均5%伸ばす、というものだ。
いわば、「従来の再建中心の経営から長期的な成長策に大きく舵を切った」(日産幹部)ものだが、その“成長エンジン”として強調されたのが電気自動車と、インドやその周辺国に投入予定の2500ドルカー(これは生産コストのため、販売価格は3000ドル程度=約32万円。インドのバジャージ社との提携による開発)に代表される新興国向けの小型格安車だ。
「日産の総力をかけた大反撃」。ある業界関係者は今回の中計をこのように形容する。生き残りの分水嶺で日産が賭ける電気自動車と小型格安車。要素技術で言い換えれば、市場が成熟した先進国向けの環境対策技術と、徹底的なコストダウン技術だ。
メインの競争相手は明白。ハイブリッド(HV)車で環境対策車の最先端を行くトヨタ自動車、10万ルピー(25万円)車の「ナノ」を発表したインドのタタ自動車である。特に電気自動車は、「リーダーになる」と今回の中計のコミットメントでもうたうほどの熱の入れよう。10年度には日米、11年度にはイスラエル、デンマークでも販売の予定だ。
イスラエルでは、従来のクルマより60%も安い電気自動車向け税制優遇策を受け、ゴーン社長は「イスラエル政府からは向こう10年間は独占的に販売する権利を得た。初年度から黒字は間違いない」と鼻息も荒い。
もっとも、今回の中計について、先述した業界関係者は“反撃”と称したが、“焦り”と見る人も少なくない。
事実、そう見られても仕方がない。周知のとおり、再建を優先する日産は基礎技術は有していたが、近視眼的な経営に陥り、環境対策車の開発がなおざりとなった。
実際、HV車の開発では完全に出遅れている。クリーンディーゼルエンジンの開発でもホンダに先んじられてしまった。インド戦略もしかりで、日産のインドでの販売台数はわずか530台(07年度)。5万~6万台規模のトヨタやホンダ、71万台のスズキには遠く及ばない。
ましてや、電気自動車の場合、街中は電気自動車、遠距離はHV車を使用するプラグインHV車と競合する。2500ドルカーのような超格安車も市場の評価はまったくの未知数だ。まさに、乾坤一擲の大勝負といえよう。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 山本猛嗣)