若いときの苦労は
べつに買わなくてもいいけれど……

ちきりん そもそも、ある程度のことを成し遂げている人で、挫折や苦労をしていない人なんて、存在しないんですよね。ただ、それを外部に言うか言わないかは、マーケティング的な方針の差にすぎないというか……。

堀江 僕はこれまで、そういったことは表に出すべきじゃない、と思っていたんですよ。なぜかというと、「苦労しなければ成功できない」みたいに思われるのがイヤで。

ちきりん それは私も同じです。苦労自体がいいものにされてしまうのは良くないと思うから、「あたしはこんなに条件が悪かった。だけど頑張ったから成功した」って言いたくない。

堀江 そうそう、そうなんです! 「若いときの苦労は買ってでもしろ」とか言う人間が、僕は本当に嫌いで。そんなのわざわざ買う必要ないし、苦労しなくてもうまくいくのであれば、そのほうがいいに決まってるじゃないですか。いくら毎日うさぎ跳びして歯を食いしばって頑張っても、試合に勝てなければ意味はないですよ。

ちきりん 全く同じ意見です。ところがこの国には、たとえ試合に負けても、努力したんだからいい、流した汗が尊いんだ、といった倒錯した考えがあるんですよね。

堀江 そう思われるのがイヤだったから、これまで自分が努力してきたことについては、あえて書いてこなかったんです。「やっぱり、歯を食いしばって努力しないと成功できないんだ……」「苦労したくないから、チャレンジしなくてもいいや……」って、読んだ人が怖じ気づいちゃうかもしれないんで。

ちきりん『ゼロ』のなかの「努力」について書かれた文章に、堀江さんのそのあたりの葛藤が見え隠れしていて、ちょっと感動しました。努力そのものが大事なわけではない。だけど自分だって、努力も苦労もしてきたんだってことは伝えたい。ギリギリの努力をされてる。

堀江 そうですね、書き方が非常にむずかしかったです。ほんとうに、苦労しました。

ちきりん 努力を努力だと思わず「ハマる」だけだ、という言い方はいいですね。

堀江 そうです、要は「楽しめ」ってことです。

ちきりん 本人は楽しんでいても、何かにハマって朝から晩まで働いている人のことを、人は努力してると呼ぶ。それがいつしか「苦労しないと成功しない」みたいな話にされてしまう(笑)。