猪瀬直樹東京都知事はわずか1年の間に2つの歴史的新記録をつくった。

 1つは、434万票という、日本の過去すべての選挙の中での最高得票で当選したこと。

 もう1つは、わずか1年にして、その知事職の退任に追い込まれ、最短在職期間の新記録となってしまったことだ。

 今回の辞職表明の引き金となったのは、言うまでもなく“徳洲会問題”だが、やはり真の原因は猪瀬氏の政治姿勢にあったと言わざるを得ない。

 猪瀬氏は当選後間もなく安倍晋三氏を表敬訪問したが、メディアに囲まれている中で、434万票をギネス記録に関連づけて安倍氏に話した。このとき安倍氏は無表情に近く、「そんなことを自慢するのか」とあきれているように見えた。この映像を見て猪瀬都政に危うさを感じたのは私だけだろうか。私は当時テレビで猪瀬氏のその態度を厳しく評価した。

 都知事選は衆院総選挙と同日選挙であったから、このとき安倍氏も自民党の大勝に有頂天になっていてもおかしくない。しかし、彼は「自民党が強くて勝ったというより、民主党が弱くて勝った」と冷静に総選挙を総括していた。同じく選挙に勝ったのに、その受け止め方は大きく違っていた。

 今回の一連の記者会見で、猪瀬氏は「傲慢になっていたと反省している」と述べたことがある。434万票も、決して猪瀬氏を、強く、積極的に支持した人たちとは言えない。前知事との関係、衆院選と同日選挙、選挙の顔ぶれなどさまざまな要因が複雑にからみ合って出た猪瀬氏の大量得票である。

予定外の都知事選は
禍を転じて福となす可能性も

 さて、これで新年早々に東京都知事選挙が実施されることになった。これは全く予定外のこと。しかも、この都知事選の結果による影響は、国の政策の方向を左右しかねないほど大きい。

 1年後の都知事選は、迷惑と言えば実に迷惑な話だが、私は禍を転じて福となすことができると歓迎している。