偏見を持たれない風俗の環境は居心地が良い

開沼 いずれもハードな仕事だったわけですが、それでもそれなりの期間働いていたわけですよね。風俗以外の仕事に就こうとは思わなかったんですか?あるいは、そうもできたが、あえて選んだのか。

大山 警備員の面接にも合格したんですけど、風俗の世界は、僕のことを知っても偏見がまったくなかったんですよね。まあ言うたら、風俗やっとる人間はやっぱり周囲から汚い仕事に思われるかもしれません。お客さんが汚した部屋を掃除する汚れ仕事かもしれんけど、働いて金をもらってる分にはほかの仕事と変わらないかなと思います。でも、ほかの人がやりたがるような仕事ではないし、その分、言葉わからないですけど“ゴミ溜め”のようなところだからこそ、偏見を持つやつが少なかったというか。

開沼 居心地が良かった?

大山 正直、風俗は一番居心地がいいですね。何も気にしなくていい。僕の場合、僕が殺人を犯したわけじゃなくても、僕に牙が向けられてしまう、差別を受けてしまうという状態でした。でも、風俗業には本当に指がない人もおるし、自分自身がもっと重大な犯罪をしとっても、何とか社会に出て働いとるような人が多いんです。僕の話を聞いても、「だから何?」程度で、「え、この子の父親は人を殺してるの……」とはならないんですよ。「ああ、そうなんだ。で?」って全然びっくりしません。居心地はよかったですね。

 いつまでもおってもいいかなとは思ったんですけど、活動を優先したいというのがありますし、何より僕を拾ってくれた社長さんがすごくいい人で、「おまえは仕事もできるし、ずっとおってほしいという気持ちはある。おまえがおりたいならいつまでもおってくれてもいいけど、おまえはこのまま風俗業でいいのか?」と言ってくれました。とりあえず今は、労働時間が短い、バーのアルバイトをしながら何とか生活しています。

 僕は夜の仕事だけでもいいと思ってますし、昼の仕事でも受け入れてくれるような会社があればとは思いますが、しっかり勉強して、いつかは記者の仕事をやれたらなと思っています。今まで誰にも話せなかったことを、僕だからこそ話せたというメールをいっぱいもらいます。伝えたい思いがあるけど、伝えられない人がたくさんいるんですよね。その思いを僕が聞いて、それを僕の手で発信できたらなと思うようになりました。

開沼 やはり、自分と同じような思いを持っている、あるいは同じではなくても、社会から偏見を持たれて悩みを抱えている人を取り上げて、考えてもらうきっかけを作りたいということですか?

大山 そうですね。僕の本を読んでそういうことを考えてもらえるのはうれしいんですけど、もうひと声ほしいとも思いますよね。そういう例が多ければ多いほど、もっと考えられるようにもなるだろうという思いもあります。

開沼 そう考えるようになったのは最近ですか?

大山 生活が落ち着いてきたから、ということはあります。ちょうど本を執筆している時期、職がなくて、電気も止まっていたことがありました。なんですぐにでも働かなかったかといったら、いま考えたらクソみたいなプライドなんですよ。

 講演をするようになって、自分自身で格好つける気持ちが生まれました。人前に出るような人間が汚れ仕事なんかしとったら恥ずかしいだろうっていう。今まで注目されることもなかったんで、調子乗っとった、気取っちゃったんですよ。そんなこともあって、このままじゃいかんなと気づかされて働き出してから、生活は落ち着きました。